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2021.01.22

「2020年度 クリエイティブ・スタートアッププログラム 中間発表」レポート

2020年11月26日、「クリエイティブ・スタートアッププログラム(全八回)」の第四回目となる中間発表会が開催されました。

スタートアップのフィールドで、デザインやアートを学ぶ美術大学ならではの人材の育成を目的としている本プログラム。前回レポートした第一回目では、「誰に喜んで欲しいのか」、ペルソナを設定すること、そして「小さな実験」を繰り返していくことがプロジェクトの内容をより具体的にするといった、今後の進め方を考える内容でした。

第一回目からの課題として、1分間ピッチを時間以内におさめるというものがありました。今回は「中間報告会」。この場では、それぞれのグループが何をしたいのか、また具体的にどのような支援を受けたいかということを明確にしたプレゼンが求められています。必要なことをまとめ、正確に伝えていけるかどうかがポイントとなってきそうです。

 

応援される人、されない人

早速1分間ピッチが始まりました。第一回目と違いタイマーが設置され、1分が過ぎると知らされる形となっており、淡々と進んでいきました。

今回は1分間を大幅に過ぎるチームはほとんどおらず、内容が具体的になっていたり、変更されていたりと、3週間経て格段な変化が。1つのスライドの文字量も少なく、簡潔になっていた印象でした。

これを受け、講師からの全体への感想に移ります。

山﨑和彦先生(クリエイティブイノベーション学科 教授)

皆さんびっくりするぐらい「小さな実験」をしてきて頂いて、結果として見えてきているものがあるなと思い、すごく嬉しいです。 1分間ピッチも上手くなってきていると思います。最初と比べると雲泥の差。

ここで、改めて何故自分がここまで進めてきたかをもう一度振り返ってみて欲しいです。小さな実験をして進めてきた要因というのは、より具体的に落とし込んでいく為ですよね。そういう意味で、その過程を忘れずにさらに繰り返していただきたいです。

小さな実験を繰り返すと、目の前の事だけに追われすぎてしまう可能性もあります。ここから繋げていったらどんなことができるだろうということも併せて考えていってみてください。既存の常識を超えたびっくりするような妄想をしてもらってもいいんじゃないかと思います。

西村真里子さん(株式会社HEART CATCH代表/プロデューサー)

今日は、私の会社として、シードの若い段階で、少額でお金を入れるとしたら、という目線で話を聞いていました。生々しくて申し訳ないけど、そんな時にどこを応援していきたいと思うかという点でいうと、 やっぱりちゃんと実現したいものに対して行動しているところかなと改めて思いました。

ピッチの中で、実際に試してみたいからこういう人たちを紹介して欲しいという話があったのですが、繋げてください、紹介してくださいと言うだけではなく、それに対してある程度動いて、紹介した時のファクトとして「ここまで作っているんです、だから紹介してください」と言えると、我々も紹介し易くなります。

行動力として何をしたかというところは、これから先物事を動かす時に大きな差になるというのが、まず全体への感想として思ったところです。

渡邉賢太郎さん(Mistletoe member、おせっかい社かける共同創業COO)

まず、あくまでこのプログラムは、スタートアップや起業の場で誰かの力を借りながら進めていくということの一つの演習であるので、投資家やメンターなど力を貸す側の視点と、皆さんのプレゼンに対して聞き手がどう思うかを、知っておいていただきたいです。

今日のプレゼンを聞いて、大きく四つの段階に分かれるなと思っていました。

1つ目、そもそも何がしたいのかよく分からないという段階。
2つ目は、何がやりたいのかは分かるから、あとはやるだけという段階。
3つ目は、なんか気になるし役立てそうだけど、自分は参加できても、他の人を巻き込めるほど関わる意義が上手く説明されてないなという段階。
4つ目は、これは一刻も早く形にしていきましょう、僕に何ができますかと言いたくなる段階。

皆さんのピッチが聞き手にとってどう映るかということを考えて頂けるといいかなと思います。その上で3点ポイントがあります。

改めてにはなりますが、そもそもピッチを1分間に設定している理由は、情報を削ぎ落として要点を伝えてもらうためです。シンプルに、「誰に何を提供するのか」は、言ってもらわないと分かりません。どんなプロジェクトや事業にもお客さんその人に対して提供する何かがあるはずです。それが示されていないと、そもそもこの人は何をしたい人なのか考えながらピッチを聞いて、気付いたら1分経ってしまうということになります。

2つ目は、最終的に投資を求めたいと考えているチームがあればという話ですが、「お金があればできるけど、無ければできない」ということは、口が裂けても言ってはいけません。お金があれば一気に進められる、もっといいものができるという説明なら良いのですが、お金さえあればできるということを言われた瞬間、この人に投資はできないと投資家側は見るので気をつけてください。

3つ目は、西村さんのお話と繋がりますが、投資家は「自分でやれることは全部やっているか」を見ています。例えばアンケートをとる先や営業先くらいは自分で見つけて欲しい。やるべきことはやって、その次に助けを求めるということをしないと、例えば僕が大切にしている先輩実業家や、仲間、プロフェッショナルな人に紹介するのは無理です。自分でやるべきことをやってない人を、他の人に助けてあげてくださいとは言えないですよね。だから、自分でできることはやり尽くしておくことが必要です。

 

伝えるべきことが伝わっているか

各チームから講師への質問に移りますが、ここで西村さんから手が上がりました。

西村さん

個別の質問をする前に、確認したいことがあるので画面共有をさせてください。皆さんの作りたいものが、「プラットフォーム(facebookやInstagramなど、発信や交流の場自体)」なのか、「コンテンツ(発信する具体的な中身)」なのか、どこを向いているのか分からないことがあったので、このメモを見てもらって、もし企画として考えていることと違うところがあれば教えてください。

画面には、各チームが【コンテンツ】か【プラットフォーム】、どちらを作ろうとしているのか、また、何を作りたいのか、西村さんが聞き手として受け取った情報を1行にまとめられたメモが表示されました。それをふまえて数名の学生から手が上がり、伝えたかったことと違うとの声がちらほら。

コンテンツを作ろうとしているように見えて、実際に計画しているものはプラットフォームであったり、実は両方を同時に作ろうとしていたりと、プレゼンで聞き手に与えた印象と、実際に伝えたいことに差異があるチームがあったことがここで明確になりました。

西村さん

皆さんご自身の認識のズレをコメントしてくれたんですけど、パッと聞いた時にコンテンツかプラットフォームのどちらにいこうとしているのかが伝わりづらいことがあります。だから、両方でもいいけど、これからスタートアップとして誰かの協力やお金を得たい時には、そこを説明できた方が良いと思います。

それから、本当は自分のやりたいことはコンテンツ作りだけど、プラットフォームの方が多くの人が協力してくれるんじゃないかという目線も大事です。どういう立場で人を巻き込んでいきたいのかを意識してもらいたいです。

山﨑先生

美大のいいところはやっぱりコンテンツを作れるというところだと思うので、クリエイティブ的なコンテンツの要素は皆さん少なからずあるんじゃないかなと思います。そこをはっきり言わないと、プラットフォームにしか見えないというようなことでもありますよね。

コンテンツを作ろうと思っているのなら、皆さんがどういうところをどう面白がったコンテンツなのかをはっきり言って欲しいです。プラットフォームなら、その場でこんな面白いことをやってくれるよねと。どちらにしろ面白いところがあるはずだから、そこをアピールして欲しいですね。

ここから個別の質問に移ります。

移動式のワークショップの場を企画している学生(造形学部 芸術文化学科 3年生)

──いま自分の得意なコンテンツを通してユーザーに体験してもらうワークショップを企画していますが、それは私個人がしたいと思って始めたものです。他の人を巻き込む意味があるのか考えた時、このスタートアップ・プログラムの中で進める為に企画をしているような思考回路になってしまっています。

西村さん

本音で答えてくれてすごくありがたいです。このプログラムを進めていく中で、本当は多くの人を巻き込んでいくよりも、自分が大切にしていることをもっと丁寧にやっていきたいということに気づいたのなら、それはすごく良いことだと思っています。

ここに無理に合わせる必要はなくて。今素直にこうして話してくれたことで、良い機会を提供できたかなと嬉しく思います。もし本当に自分がやりたいこととこのプログラムがずれているのなら本末転倒ですし、やりたい事を丁寧にやるというのも一つの正解だと思います。

渡邉さん

西村さんのおっしゃる通りで、これは単なる機会でしかないので、YouTube のコンテンツと一緒だと思ってもらっていいです。見たくないものを見る必要はなくて。僕自身は、「皆さんがもし投資を受けるスタートアップをやりたいのであれば、こういう観点が必要だ」ということを、僕なりの経験から話しているだけで、それをやらないと意味がない、価値がないということでは全くないです。

それぞれが自分のやりたいことや、作りたいことを実現するのが第一だと思うので、そういう意味ではやりたいことを素直にやって頂けたらいいのかなと思います。

講師の話を受け、続けて再び質問する学生

──たくさんの人を巻き込んでいけることが社会の中で必要だという思いがあるので、もっと掘り下げていきたいのですが、したいことが社会への貢献に繋がっているのかという疑問もあります。

渡邉さん

それは、多くの方が必ず陥るポイントなので、自分だけが駄目だというわけではないと思って頂いて良いと思います。

僕の視点だけで言うと、僕らは、役に立たないといけないということを呪いのようにかけられていると思っているんです。誰かの役に立たないと、自分自身が存在している価値がないという風に思わされてるんです。何者かにならないといけない病って僕は呼んでるんですけど 。

でも考えてみたら分かることですが、誰かの役に立つという事は、まずその人が自身で一人で立っていないとできないですよね。だから、いずれ誰かを支えたい、誰かに喜んでもらえる自分でいたいという気持ちを持っているのは適切だと思うんですけど、ひとっ飛びでそこまで行くよりは、自分自身が何をやりたいのかをとことん突き詰めて、それに正直になることの方がよっぽど重要ですよね。

それがたまたま、大きな事業にチャレンジしてみたいっていう人もいれば、保育士さんになって子供たちをケアする方が好きだという人もいる、それだけで。その人自身であれば何でもいいと思うんですよ。それを見出すことが一番大事ですよね。私はこれって言えるものが見つかるといいですよね。

 

夢の大きさは、人が関わる余白

次に講師の方から気になったチームへの質問タイムに移ります。スタッフが気になる学生はいるか渡邉さんへ尋ねます。

渡邉さん

僕は厳しい事しか言えないので希望される方がいれば言います。

西村さん

怖い。(笑)

渡邉さん

厳しい事っていうのは、でも、もし自分が皆さんの父親や兄貴だったら何て言うのかということです。このままじゃ走らせられないって思ってることは正直に言います。だから厳しいというのは恨み辛みじゃないですよ。

移動式のワークショップの場を企画している学生(造形学部 芸術文化学科 3年生)

──(自身のプロジェクトについて)フィードバックをお願いします。コンテンツとプラットフォームのどちらかでやりたいことの比重で言えばプラットフォームなのかなと思っていますが、コンテンツ作りと、プロジェクトとして進める内容に乖離があると感じています。

渡邉さん

考え方として、新しい観念やコンテンツを作る人たちって、自分が今あるどの舞台にも立てないなと気づくことがあります。例えば自分がしたい演目がある場合は自分が舞台をつくらないといけないということがあって。渋谷にある2.5次元シアターとか、アニメの世界を演劇にすることを専門でしてますよね。

そういうふうに、自分がやろうとしているコンテンツを、今の既存のプラットフォームに載せたらどれも意味が変わっちゃうっていう人たちが、自分たち専用の舞台を先に作ってしまうっていう感覚だと思うんです。そういう意味で、実はコンテンツとプラットフォームって両方大事だという人も、中にはいるだろうなとも思います。

ユーザーに合わせた部屋の内装を考えるサービスを提案している学生(造形学部 油絵学科 3年生)

──私もフィードバックをお願いします。考えているプロジェクトの意義がまだ見つけられていません。

渡邉さん

僕だったら、考えたサービスを利用したくてたまらない人、お金を出してもいいから誰か部屋を変えてくれと、喉から手が出るほどそのサービスを欲してる人はどんな人なのかを最初に考えます。そういう人が世の中にいるのかどうかを考えられてないんじゃないかと思います。本当にありがとうって言ってくれる人って誰でしょうか。試しならいいよというレベルではなく、泣いて喜ぶほどのニーズを持ってる人を考えてみてください。

それが誰にとってどんな価値を持っているのか、それが広がっていくことでお金が儲かるのか、大きなビジネスにできるのか、それとも幸せな人たちが増えるのか…。先に見えていく変化とかでもいいんですけど。それがもしあれば知りたいです。無いのであれば、自分でやりたいようにやったらいいんじゃないのと僕は思います。

自分の本心と向き合い、自己を知ることができる場作りを企画している学生(大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコース 2年生)

──渡邉さんが最初に説明されていた、一段階目から四段階目の話についてですが、三段回目から四段階目に行くには何が必要なのでしょうか。

渡邉さん

例えば僕が山に登りに行きたいから応援してくれと言うとします。それで、A:高尾山に登ると言った場合と、B:エベレストに登ると言った場合、皆さんはどちらを応援しようと思いますか。

高尾山でも応援することはできるけど、ただ行けばいいじゃんと思いませんか。でもエベレストだったら、こいつ本気だ!と思って500円でもいいから寄付するとか、知り合いにインドとかネパールの人がいるよという話にもなるかもしれませんよね。

要は夢の大きさというのは、人が関わる余白なんです。協力したくなる余白のある大きな目指す何かであるかということと、あとはそれに協力するこちら側にとっての意味や意義を提示されているかが重要だと思うんです。それができているものは関わろうと思いますし、提示されてないものには関わりたくても関れません。そこは意識をしていただきたいです。

西村さん

(質問している学生の)プロジェクトが進んでいるのを見ていて思ったことは、(コンセプトとしている)「自分と向き合う」ということを、あなたの中だけで捉えて進めていく中で、次のフェーズとして実際に専門分野の方の話を聞くことで、より多くの人を巻き込む手段になるのかなと思います。

誰もが分かりやすく、なんとかの先生にも聞いていますみたいな。そういう情報を人々は聞くし、有効だと思うから、話を聞きに行った結果を資料として出したり、また自分の中に蓄積させていくというのも、次のステップとしてあってもいいかなというのは思っています。

 

まとめ

今回、常に話題としてあったのは、「できることを全てやっているか」ということでした。第一回目と比べると、したいことがかなり具体的になっていたり、自分自身と対話をして本当にやりたいことを見つめ直した結果プロジェクトの内容が変更されていたりと、少しずつ進んでいる様子がうかがえましたが、目標に対して今の自分に何ができるのか突き詰めて実行することが、更に進めていく上で必要となりそうです。

行動するということは、協力や応援をして欲しい他者の心を動かすときの大きな説得力にもなることに気付かされました。そうすることで、さらにどのように関わればいいのか、他者もイメージすることができ、「関わらせる余白」をデザインしていくことに繋がるのではないでしょうか。

最後にスタッフから、「皆さん結構真面目なのでこちらが言う通りにやって来てくださるのをよく見るんですが、このプログラム自体は基本的に皆さんのやりたいことをそのまま応援していきたいという気持ちで行っているので、あまり変に気を遣わずどんどん考えや案を出していってもらうのが一番いいかなと思っています」との声もありました。

講義中に「プログラムに合わせてしまっている」という本音も聞くことができましたが、あくまで自分主導で進めていくことで、必然的に選択肢が絞られていくことにもなりそうです。大袈裟かもしれませんが、これは社会に出て就職したり、やるかやらないかという分岐点に立った時や、またやっていながら目的が見えなくなった時など、この先にも通ずる心構えなのではないかと感じました。

第一回目でも言われた1分間ピッチに関しては、1分におさめることはできていたものの、自分たちの計画していることを正確に伝えられていないことが浮き彫りになってしまいました。まだまだ要点を絞る余地がありそうです。何をするのか具体的になっていった後も、優先順位は同じく「誰の為の何がしたいのか」。言葉を簡潔にするということは、相手へ共有するイメージを簡潔にするということ。次回に向けて更なるブラッシュアップを期待しています。

次に私がこのプログラムを訪れるのは、いよいよ最終発表の日となります。オリジナリティ溢れるアイデアの集大成をみられることがとても楽しみです。

「2020年度 クリエイティブ・スタートアッププログラム 最終発表」レポート


text : 大西 裕菜

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