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2024.04.16

「EquityとSustainabilityをデザインする:フードロスを防ぐためのシステムデザイン」イベントレポート

2024年3月26日に、武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所(以下、RCSC)では、「EquityとSustainabilityをデザインする:フードロスを防ぐためのシステムデザイン」と題しイベントを開催した。

本イベントでは、アメリカ・シカゴにあるイリノイ工科大学Institute of DesignのAnijo Mathew氏(アニジョ・マシュー氏)と、Maura Shea氏(マウラ・シェイ氏)をお呼びし、同大学のAction labの研究プロジェクトの一つであるFood systemのプロジェクトについてご紹介していただいた。流通における食品余剰の防止から、都市の食品コンポストを都市の公共施設にするための支援まで、プロジェクトの事例を共有していただいた。

イベントの後半では、武蔵野美術大学の岩嵜博論教授、イリノイ工科大学Institute of Designのマウラ・シェイ氏に加え、東京の蔵前で循環経済の実現を目指すelabの代表である大山貴子氏に登壇していただき、日本とアメリカの事例を比較しながら循環経済を目指すためのデザインについてパネルディスカッションを行った。

岩嵜教授による大学の紹介と本プログラムのタイムスケジュールなどが紹介されたのち、アニジョ・マシュー氏によるプレゼンテーションが始まった。

 

「The Future of Design-led Leadership」

アニジョ・マシュー氏は講演の中で、主にデザイナーがビジネスや現代の複雑な課題の現場で求められている役割とそれに熱心に取り組んでいるイリノイ工科大学Institute of Design(ID)のこれまでとこれからについて話した。

記念すべき85周年を迎えたというIDは、ドイツにある美術学校「バウハウス」の創設者のうちの1人がシカゴに移って創立し、1960年代にはシステムデザイン、1990年代には人間中心設計のデザインといったようにさまざまなデザインシステムのパイオニアとして時代の変化に合わせ、姿を変えてきた。 

マシュー氏は、デザインの意味について、多くの人はプロダクトの見た目などの美しさのことをデザインとして認識しているが、IDとしては見た目よりも影響力に注力していることを強調。何かを生み出す過程でユーザーに寄り添うことが失われつつある状況を「イノベーションギャップ」と呼び、組織においてデザインが重要な役割を担うと話した。また、現在多くの組織が「何を生み出すべきか」ではなく、「何を生み出せるか」に重点をおいていることについてIDで議論しているというビジネスにおいてのデザインの役割についての意見を述べた。

従来デザイナーは良い商品を生み出そうと実現的、実務的な観点に焦点を当てていた。一方、デザイン・シンキングはアイデア出し、観念化で止まってしまい、何も生み出されないという状況が起きてしまう。そこでデザインファームのIDEOは、両方の要素を含んだスパンのある新しいデザインが必要だと判断した。それがクリエイティブ・リーダーシップと私たちが呼んでいるものだという。「デザイン」とは最終的なプロダクトにとどまらず、行動を実行し、実現するまでの一連の行為を表す単語であると定義づけた。

デザイナーがリーダーシップをとるべき場面として、ビジネスだけでなく、現代の複雑なイノベーションの現場 (都市、まち、食、データ、サステナビリティ、気候変動など) をあげ、こういった場面で大きな影響を与えられると語った。またアニジョ氏は、これからの組織はステークホルダーの価値を心配するべきであり、シェアホルダーからステークホルダーへと価値が変化していることは新しいイノベーションギャップだと感じており、デザイナーが介入するべきところであるとも説明した。

マシュー氏は、AIの進化が目覚ましい現代、以前よりも違う考えを持った人が必要だと話した。過去のやり方ばかりみていてもAIに取って代わられるからである。これから必要とされるリーダー像について、「何をするべきか知っている。いう通りにすれば良い」という人ではなく「何をするべきかわからない」と言えるようなリーダー、「何をするべきか理解できるようになる」ためのスキルを持って未来をプロトタイプでき、不完全なデータを埋めるためには曖昧さ、不明確さを心地よく思えるようなリーダーの必要性を強調した。最後にIDがこれからクリエイティブリーダーシッププログラムに注力していくと話し、学部と大学院での学び、活躍する卒業生のネットワークの広さについて話し、講演を締め括った。

 

「Designing Equity & Sustainability: Using Systems Design to Prevent Food Waste」

「Designing Equity & Sustainability: Using Systems Design to Prevent Food Waste」と題されたレクチャーでは、マウラ・シェイ氏がフードシステムの持続可能性と公平性の向上に向けたシステムデザインのアプローチを中心に語った。この講演では、食品廃棄問題への包括的な理解と、この問題に対処するための多面的な戦略が提示された。特に、フードシステムの各段階における介入の必要性と具体的な例が強調され、これらの取り組みを通じて、食品廃棄の削減と食品不安の解消に貢献する方法が探求された。

講演の冒頭、シェイ氏は、メキシコとアリゾナ州サンタクルーズの国境近くで定期的に発生する食品廃棄の問題を取り上げ、食品が大量に廃棄される現場の写真を共有した。この問題を例に挙げることで、食品廃棄が単なる地域的な問題ではなく、グローバルなフードシステムの構造的な欠陥から生じているシステム的な問題であることを強調した。

フードシステムは線形的な流れを持ち、各段階で食品が無駄になる機会があることが指摘された。農場から始まり、加工、流通、消費に至るまでの全過程で、異なる要因により食品廃棄が発生している。この問題に対処するためには、供給チェーンの全段階での介入が不可欠であり、各ステージごとに特有の課題に対する具体的な解決策が求められる。

食品廃棄物シンクタンクRefedの研究を引用して、シェイ氏は、食品廃棄は供給チェーンの各段階で発生しており、システム全体の問題として捉え、多様なステークホルダーの協力と多角的な介入が必要であると述べた。具体的には、農場レベルでの食品廃棄の削減、製造過程での効率化、消費者向け事業での食品救済活動の強化、そして家庭での食品ロスの教育と啓発が重要である。

この点において、シェイ氏はフードバンクのシステムを通じた食品救済活動の例を挙げ、新鮮な農産物をフードバンクやコミュニティの食品支援プログラムに含める取り組みの拡大が、食品廃棄の削減と食品不安の解消に大きく貢献していることを説明した。このアプローチには、農家や食品生産者から余剰の農産物を集め、それらを必要とする家庭や個人に直接提供するというシンプルながら効果的なメカニズムが含まれている。このプロセスを通じて、未使用の食品が無駄になるのを防ぎ、同時に地域社会の食品アクセスを向上させることができると語った。

シェイ氏は、シカゴ市で行われたコンポスティングプロジェクトを食品廃棄問題に対する具体的な解決策の一例として紹介した。地元の食品サービス会社が会議センターなどから出る余剰食品を集め、これを地域の食品銀行や食品配布プログラムに提供しており、これにより、食品廃棄が減少し、地域コミュニティの食品供給が向上していると説明した。さらに、フードバンクは農家から直接余剰の農産物を受け取り、これを必要とする人々に配布することで、食品廃棄の削減に寄与していると語った。

講演は、食品システムにおける持続可能性と公平性を実現するためには、単に技術的な解決策を導入するだけでなく、システムデザインの観点から問題にアプローチし、様々なステークホルダー間での協力を促進し、共同で解決策を模索することの重要性を訴えた。これにより、食品廃棄という複雑で多面的な問題に対して、より実効性のある対策を講じることができると結論づけた。

パネルディスカッション

イベントの後半では、パネルディスカッションを行なった。モデレーターは、武蔵野美術大学の岩嵜教授。パネラーは、マウラ・シェイ氏、大山貴子氏である。

まず、大山氏から代表を務めるélabの成り立ちや目的、活動内容についてご紹介いただいた。

 

élabの取り組みと社会における役割

大山貴子氏は、パネルディスカッションのはじめに自己紹介と自身で立ち上げた株式会社fog、そしてélabとその取り組みを紹介した。サーキュラーカンパニーであるfogは、サーキュラーエコノミーの促進に向けて、人々の振る舞いや態度に変化をもたらすことを重要視していると話した。もともとは会社や政府に対するコンサル事業をメインに行っていたが、だんだんと「自分たちでやろう」となり、2021年、élabを立ち上げた。

élabは、日本語の「選ぶ」とLaboratory を掛け合わせたもので、未来の選択を探る場所として名付けられた。élabはサーキュラーエコノミーに順応する日常を生み出す可能性を探る場であり、そのために様々な取り組みを通じて一般市民やプロデューサーなどさまざまなステークホルダーを巻き込み、持続可能な社会を一緒に模索している。

株式会社fogのコンサル事業としては、会社の態度や姿勢を変えていくための取り組みをしていると説明した。会社においてもサステナビリティやSDGsについて盛んに議論がなされているが、それ以前に社員は一市民であることから、日常的な過ごし方の意識を変えられる可能性があり、持続可能な社会に結びつけられる可能性がある。ワークショップなどを通して、サステナビリティについての教育を行っていくことの重要性を話した。

続いて大山氏はélabについてより具体的に話した。élabには、キッチンラボとリビングラボの2つの機能がある。みみずコンポストが設置されたキッチンラボでは、地域の野菜など仕入れ、ローカルな食材を提供している。みみずコンポストは、初めは抵抗のある人にも実際に目でみて感じてもらうことで、生ゴミが思っていたよりも匂わないことに気づき、また思っていたよりも簡単なことに気づいてもらう狙いがあった。狙い通り、関心を持ってくれる人が増え、みみずの様子を気にかけるようまでになった。

élabの役割、目的について大山氏はこう続けた。サステナビリティについて考えた時、地球規模で考えるととても大きすぎて、責任も感じてしまう。個人や家族の規模で考えることでより身近に感じてもらうため、élabにとしてはローカルな規模での取り組みが大切であると考えている。地元の人には、élabで料理を食べてもらい地元食材の良さを実感してもらったり、金継ぎをはじめとしたワークショップに参加してもらい自分でそれらをすることが思っているほど難しくはないことを知ってもらうことができる。また、élabは市民の人とのコミュニケーションを大切にしており、それが行動の変化につながると考えている。例えば惣菜をタッパーに入れて持って帰れる仕組みを実施しており、コミュニケーションをすることでタッパーを持ってくるようになった人がいたという。そういった人が少しずつ会社や他の食品売り場で実践することで、周りの意識を変える可能性にもつながると話した。

最後に、だんだんとélabを利用する人が増えていき、その多様性について話した。日常のルーティーンの中に組み込む人もいれば、élabでイベントを開く人もおり、働き始めた人もいる。ステークホルダーとの様々な関わりをしていくうちに、多様な人がélabの一部となっていったという。また、外部との連携の具体例として、(通常は処分される)カカオの皮の部分を使ったドーナツ、ローカルな材料で作られたオリジナルのデュカをあげた。そして他の地域での取り組みの例として、京都にある出汁屋とも廃棄について持続的なシステム開発に向けてコラボをしていることをあげ、話を締め括った。

 

ローカルなシステムの価値

 

パネルディスカッションでは、はじめにローカル規模でのシステムの価値について議論が繰り広げられた。

シェイ氏はélabの印象について、多様なステークホルダーに対して、アップサイクルや廃棄物を資源として捉えることの価値を示すことができ、マイクロスケールの例えとして完璧なものであると評した。食材がどこからきているのか、お金がどう流れているのかなどを知りたい人が増えているように、ステークホルダーのマインドセットを変える機会となることを主張した。

続いて、司会の岩嵜教授から、現代の国際的なシステムによるローカルなシステムの縮小化、持続可能な未来の実現に向けてローカルなシステムを再構築する必要性、一方でローカルなシステムが生み出す国際的なシステムとの距離についての懸念が投げかけられた。

これに対し大山氏は、小規模なビジネスが主導権を握ってフードロスの問題などに取り組んでいることを指摘した。世界から閉ざすのではなくオープンソースでそういった人たちが世界から集まって話し合い、メソッドを共有し合うのが良いと主張した。

続いてシェイ氏は、「人々は以前よりもローカルな食べ物を買う傾向があります。安い大規模なお店でお金を使うよりも自分の地域に貢献できるようにお金を流通させています。大山さんがいったように地域、まち、国を超えて そういったリーダーたちを集めることでより良い状況にできるよう学び合い高め合うことができます。」と、同意する姿勢をみせ、こういったネットワークが大切だと話した。

大山氏は自身がブルックリンに滞在していた経験のなかで、スーパーの野菜に、ローカルなものかがわかりやすく示されていたことを話し、地域において野菜などがどこからきているのかなど、その地域、コミュニティを知ることの重要性を主張。人々が地域主体の農業に参加し、近くの農家から直接野菜を買うようになり、システムを変えることにもつながるかもしれないとも話した。

シェイ氏はそれを価値に基づいた視点であると指摘した。普段から、ただお金を使うということではなく、人のつながりでより豊かな体験となるという考えから、人間性や人間関係が組み込まれたシステムデザインや人間中心設計デザインをしているという。

続いて岩嵜教授は冒頭の大山氏の講演の中の個人規模と地球規模の話について取り上げ、持続可能な社会を実現させるためには、全員がサステナビリティに高い危機感を持つ必要はなく、私たちが普段注意して過ごしている日常を持続可能な社会に向けて変える必要があるという考えを示した。どのようにして私たちの日常生活を変えて自然に地球全体のレベルに繋げることができるのかを投げかけた。

大山氏は、近所や地域のことを知ることができ、私たちが現代社会において実践できる方法の例えとして、バルセロナが2050年までに、すべてのことが市内で完結できる街を目指していること、そしてパリの徒歩で生活できるようにする「15分都市」を挙げた。自身が庭に誰でも入れるコンポストの庭を設置しているように、地域に人々にオープンにしておくことで、人々にその心地よさを知ってもらうことができると主張した。

ビジュアライゼーション(可視化)の重要性

シェイ氏は、これらをシステムが変化していくためのデモンストレーションであると捉え、実際に会社や地域、政府などさまざまなステークホルダーのニーズに、廃棄物はどこにいくのか、誰が責任を取るのかなどを含めているという。こういった総合的な責任が伴う問題に対し、彼女らはそれらを可視化し、どのようにしてそれが起こっているのか示すという。個人経営が盛んなアメリカや日本で、北欧などのエリアで行われているCo-Design (デザイナーや専門家と言った限られた人々によってデザインするのではなくて、実際の利用者や利害関係者たちとプロジェクトのなかで積極的にかかわりながらデザインしていく取り組みのこと。)を促進するための手段としても、システムを可視化することの重要性を指摘した。

これはビジネスの廃棄物の責任問題において問題点となっている、みてみぬふりをできなくする効果があると話し、可視化して理解してもらうことはこの状況を変え、無責任な会社を減らすことができるとも主張した。技術や情報が発展したからこそ、より知ることができる社会になり、可視化による見て見ぬふりを減らすこと効果に期待できると話した。

循環経済のグローバル視点とローカル視点

岩嵜氏は、デザインの際に可視化が不可欠であることに同意し、地域レベルでのシステムの可視化とグローバルレベルでのシステムの可視化の両方を考慮する必要性を強調した。この多角的な視野が、より広いシステムの理解につながると述べた。その上で、どのように2つの極端な視点を持つことができるかについて問いを投げかけた。

続いてシェイ氏は、可視化の重要性を補足し、「今日可視化したものが、明日も有効であるとは限らない」とした上で、システムのダイナミズムと変化に焦点を当て、ステークホルダー各人の世界観や動機を探求していくことが、未来の可能性を探求することにつながることを強調した。多様な選択肢を認識することが、リーダーたちに新たな将来像を提供するとした。

大山氏は、家庭の食品廃棄が大きな課題であることと、企業が循環経済を製造レベルに限定して考えがちであることを指摘し、企業によるエンドユーザーまで考慮した循環のデザインの必要性を訴えた。

最後に、シェイ氏は、大山氏に同意する形で供給チェーン上流での食品廃棄を減らす取り組みに言及した。また、家庭での食品に対する感謝の気持ちを持つことなども重要な取り組みであることを強調した。

 

将来の世代に向けたデザインの考慮

 

岩嵜氏は、持続可能な社会を築くためには現在だけでなく、数十年後や数百年後を見据えた長期的な視点が必要だと述べた。彼は、現在の認識を超える方法についての考えを2人に求めた。

シェイ氏は、勤務している大学にあるデザインの未来を予測するコースで、トレンドや未来レポートなどを活用し、投影することで企業や組織が直面する選択肢を探る方法について説明した。その上で、それぞれの会社や個人がとりうるレバレッジポイントを設定することが必要であると述べた。

岩嵜氏は、前段のプレゼンテーションで紹介されていた資本モデルについての詳しい説明をシェイ氏に求めた。

シェイ氏は、そのモデルが博士課程の学生による研究の成果であると説明した上で、モデルを利用し今日の実践について考えることにより、経済的、社会的、人間・環境的要因がどのように展開しているかという研究の基盤を提供していると説明した。

食品廃棄物を扱っている人々は、現在のビジネスの実情をよく理解しており、彼らと協力して未来のシナリオを想像し、一緒に将来何が起こり得るかを探求するためのフィードバックが重要であることを強調した。また、資本モデルはに基づいた彼らの理解している実情を基にシナリオを考えることができる創造的な環境を構築するのに役立つと述べた。

大山氏は、将来の世代を考慮したデザインについて、正しい情報の見極めを基に持続可能性や食品廃棄に取り組む必要性を述べ、情報の蓄積と共有、そして業界を超えた積極的な協力の重要性を強調した。

最後に、シェイ氏は食品ロス防止プロジェクトが連邦政府によって支持されている食品廃棄物協定に基づくものであると説明した。協定に基づいた企業活動は繊細な議論と協力的なアプローチが必要とされるものの、これにより食品企業自体が競争を超えて協力することの重要性を確認することができたと述べた。

Q&A

パネルディスカッションの後、会場からの質問をピックアップしてQ&Aセッションを行なった。

Q1: 「大企業は食品廃棄を避けるよりも利益を優先する傾向があります。彼らを動機づける良いアイデアはありますか?」

シェイ氏は、アメリカでは大企業が食品廃棄を避けるためにすでにいくつかの協定の一部になっていることを指摘した。シェイ氏は、農家や地域集団との協力を通じて、廃棄物を防ぐ組織をどのように構築できるかについて語り、フードバンクに寄付するために過剰に生産するようになってしまい税制優遇が逆効果になった例を挙げた。シェイ氏はここでもシステムの可視化の重要性を指摘し、各人のインセンティブや動機を理解しやすくすることが必要であることを強調した。またシェイ氏は、米国では現在大企業が食品廃棄問題に取り組む必要があることを認識し始めていると述べた。

大山氏は、日本農業協同組合(JA)を例に挙げ、農家が過剰に野菜を生産しているが、組合員は規制によりJAを通じてのみ流通させる必要があるため、フードバンクへの寄付が困難である現状を説明した。またこの複雑なシステムの変更が必要であると指摘した。

シェイ氏は、米国で食料品協会と行っている食品ロス予防の取り組みを引き合いに出し、業界の新しい標準を設定することの重要性を強調した。また規制構造が現在のニーズに応えていないため、変化が必要であるという点で大山氏の意見に賛同した。

Q2: 「マクロ、メゾ、ミクロレイヤーごとに、どのようにして一貫した方法でシステム介入のアイデアを構築できますか?」

シェイ氏は、システムに対するマクロ、メゾ、ミクロへの一貫した方法による介入は実現することはできないと回答した。それは本質的に動的で、異なり、変化していくものであるため、各レベルで創発的な介入が必要になるからだと述べた。

しかし、3つのレイヤーを超えて、一貫した学びはあると述べた。彼女は、ロックフェラー財団が資金提供する食品システムの変革に専念するプロジェクトを例に挙げ、このプロジェクトを通じて、マイクロレベルの変化がマクロレベルの政策に影響を与えうる接続を見出していると語った。

岩嵜氏は、この方法が非常に難しいものの、ロックフェラー財団が地方レベルと政治的レベルの接続に成功していると認めつつ、日本ではこのような接続の機会が少ないと指摘した。

それを受けて、シェイ氏はCOVID-19下で州知事たちが検査キットの集団購入を検討していた事例をあげた。こうした集団購入は多くの異なるビジネスや協会において起こっていることであるものの、地方行政がその方法で協力できることを認識する重要な事例であったと説明した。シェイ氏は異なるステークホルダーやピアネットワークを組織化することの重要性を強調し、それが将来的に非常に強力なものになり得ると述べた。

Q3: 「デザインにおける一般的な課題のひとつは価値を示すことです。影響を示すためにどのような指標を追跡していますか?」

大山氏は、メディア制作の取り組みを通じて外部に情報を公開し、そのプロセスをオープンソース化することで影響を示す方法を探っていると回答した。活動の最終目標はモデルを広げ、他の地域に適用することであり、その過程で出版社やメディアと連携して情報を広めようとしているものの、まだ具体的な指標を設定する段階には至っていないと述べた。

シェイ氏は、指標は利害関係者が達成しようとしている成果に関連していると回答した。地元の食品を購入する政府のピアネットワークを例に挙げ、地元の食品購入の増加を追跡することが彼らの主要な指標であることを説明した。また、シェイ氏は「何を無駄にしていないかを測定しようとすることは、存在しないものを測定しようとするので非常にチャレンジングなことだ」とも説明し、食品ロスに関する明確な指標を見つける困難さを指摘した。さらに、食品ロス防止に関するピアラーニングネットワークやシカゴでのコンポストプロジェクトに言及し、これらの取り組みがどのようにピアプレッシャーを指標として利用しているかを述べた。

Q4: 「様々なステークホルダーや状況の中で、単一の好ましい未来は存在しないと思いますが、この状況の下でどのようにコデザインを進めて好ましい未来に向かえるでしょうか?」

シェイ氏は、好ましい未来を一つに限定することはできないと回答した。その上で、ステークホルダーの異なる視点を理解し、それぞれが貢献できる価値を認識することがコデザインの鍵であることを説明した。シカゴのコンポストプロジェクトを例に挙げ、異なる企業が協調することでより大きな利益を得られるが、現在は調整されておらず、競合が発生している状況を指摘した。調整され、規制されたシステムは、すべての人にとってより良い未来をもたらし、過剰な廃棄物を防ぐことができると述べた。

大山氏は、所属している社会やレイヤーが異なるため、単一の好ましい未来を見つけることは難しいと述べた。大山氏は、自身のコミュニティでのコンポストプロジェクトを通じた個人的な経験を共有し、対話を通じて異なるセクションごとに未来のビジョンをクラスター化することの重要性を強調しました。競争ではなく、対話を通じて未来を近づけることが可能だと述べた。

Q&Aセクション後、会場は岩嵜博論氏、大山貴子氏、マウラ・シェイ氏、さらにアニジョ・マシュー氏に暖かい拍手が送られ、講演は終了した。

 


text:福原稔也、西條仁那