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2022.07.24

「社会を変える、ストラテジックデザインの現在」イベントレポート

2022年6月28日に武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所では、株式会社リ・パブリックのご協力のもと、メルボルン大学のダン・ヒル先生による「社会を変える、ストラテジックデザインの現在」の対面イベントが行われました。

当日の様子は、YouTubeのアーカイブ「社会を変える、ストラテジックデザインの現在」からもご覧いただけます。

以下は、ご講演の文字起こしです。


本日はご招待いただきありがとうございます。また、主催してくださった武蔵野美術大学、リ・パブリックの皆様に感謝します。

最後に来日したのは2019年12月でした。その2ヶ月後にコロナウイルスが発生し、奇妙な時代へと突入しました。

その時はスウェーデン政府イノベーション庁Vinnovaにてデザイン・ディレクターを勤めていました。Vinnovaは、日本の国立研究開発法人科学技術振興機構(略称JST)に近い組織です。現在はオーストラリアのメルボルン大学で、建築について教鞭をとっています。

実のところ、私のバックグラウンドは建築ではなく、デザインの領域です。私が始めた頃、インタラクションデザインとサービスデザインという言葉はありませんでした。しかし、時が経つにつれて、私は様々なスケールで、様々な産業や文脈で仕事をするようになりました。デザイナーとしてカルフォルニアのGoogleキャンパス、BBCで仕事をしたこともありましたし、ロンドンのビクトリア&アルバート博物館、図書館、携帯電話などのデザインも手掛けました。携帯電話から都市までの非常に幅広い範囲が私の仕事領域です。

映像から感じ取っていただけると良いのですが、恐らくこの部屋にいるデザイナーの皆さんがされているようなことが、映像の中でも描かれていると思います。私はインタラクションとテクノロジーと場所の3つを繋ぐ仕事をしてきました。

これらは、私がこれまで公共部門と民間部門の両方で行ってきたプロジェクトのビデオです。場や環境との関係性、ビルや都市の中における人々のインタラクションを考えることが一貫する私の領域であるように思います。ある時は未来を想像させる様なスペキュラティブなデザイン、ある時は今すぐに毎日使えるようなサービスのデザインを行ってきました。

これは私が作成したダイアグラムです。果たしてこの図が良いものかはわかりませんが、一つの試みとして行なってみました。 Thing、Spaces、Services、Systems、そしてComplex systems of systems の関係性を示しています。ここに書いてあるデザインの領域に明確な境があるという訳ではありません。ただ、こうして図に落とし込んでみると、一番下のレイヤーの右端に私が専門とするストラテジックデザインの領域があると思われます。ストラテジックデザインは全ての事をする訳ではありませんが、他の領域と議論を共に行います。最も重要なのは、私たちが下す決断は、互いに影響を与えていることを認識することです。その中で、いかにして異なる複数の領域を繋げ、議論させていくかが重要だと考えています。

ストラテジックデザインは、現代の困難な課題をいかに解決していくかということに核心があります。複雑な課題は、例えば、環境問題、高齢化、社会的不平等、住宅問題のように多岐にわたります。このような複雑な課題に対しては、時にはツールを作るということが解決策となるかもしれませんが、単一の領域では解決できませんし、ペットボトルひとつをデザインすれば解決するというものでもありません。ストラテジックデザインは解決策を複合的に考えていく領域だと考えています。

もちろん、私たちはストラテジックデザインが全て解決できるものだとは思っていません。

非常に謙虚な姿勢で臨んでいます。気候変動の問題ひとつを取っても、デザインのみで解決できるわけではありません。他の分野と一緒に協働しながら、解決策を見つけることが大切であり、その中でデザインに役割があると考えています。

この10日間で私は東京や京都を巡り、この写真に写っている人々に会ってきました。メルボルン大学での同僚と一緒に視察も行いました。時には自転車に乗って東北沢を探索したりもしました。この資料をご覧頂くと、様々な領域の人が混ざっているのがわかるかと思います。これは東京大学の筧研究室に伺い、温度によって色が変わる西陣織を見せてもらった様子です。とってもかっこいいですね。それから、鴨川の河床も訪れましたよ。

科学それ自体は課題を解決しないどころか、時に悪化をさせてしまいます。スマートシティの文脈においても、様々な議論があり、テクノロジーが応用されています。しかし、必ずしもテクノロジーが解決を導いているとは限りません。例えば、UberやLyftは日本では食事を届けるサービスのイメージがありますが、海外では主にタクシーに移動手段として使われています。これらも、当初は車をシェアすることで交通量が減ると主張していましたが、現在では路上にドライバーが増え、渋滞を引き起こしています。こうしたことを踏まえると、行政と人、場所の3つがどういった関係性でサービスを成立させるか、全体を俯瞰して考えることが大切です。デザイナーはこれら全てを解決することはできませんが、こうしたら良いのではないかというアイデアや、他の可能性を提示することができます。

例えば、Uberのインタラクションデザイナーが良い仕事をしていない訳ではないでしょう。Uberは確かにとても良いアプリケーションを作っています。しかし、街の文脈において、悪い結果をもたらしていることこそが問題なのです。このことはAirbnbをはじめ、他のイノベーティブなサービスについても同様に言えることです。

デザイナーは異なる複数のシステムとの関係性を考える責任があると思います。自分達のサービスの周りにある全てのものとの関係性や影響を考慮せずにデザインすることはできないのです。全ては相互に接続しているということが徐々に理解され始めています。

物事が繋がり合っているというこれらの感覚は、これらの仕事や課題に対する意識を変えます。マデレーン・オルブライトが語った内容を要約します。21世紀におけるシステミックで複雑な課題は19世紀とは非常に異なる体系をしていますが、20世紀の急速な産業成長や我々が継承する既存の民主主義の仕組みは19世紀に生まれた概念の上に成り立ってきたと、オルブライトは語っています。私たちは21世紀の困難な課題に対して、間違ったツールを用いて解決しようとしているのではないでしょうか。

私たちの科学やテクノロジーへの執着が、私たちが直面している社会的な複雑な課題や自然の問題を解決することはできません。全世界の研究やイノベーションに大きな影響を与えたアポロ計画について考えてみましょう。1979年にリチャード・ネルソンが書いた『月とゲットー』という本があります。これは非常に端的によく言い表していると思います。実はアポロ計画をはじめ、人類は月に何度も訪れています。ところが、計画を成功させたアメリカでも、ゲットー(低所得者層が多く住まう地域)の問題は全く解決していません。月に行くことは簡単です。そこには科学的及び技術的な課題があります。確かに労力を要するものですが、技術的な問いに対する変数は制御することができるため、解くのは簡単なのです。一方、社会的で複合的な問題はより解決が難しいのです。ムーンショットのアプローチでは社会問題を解決できないと言えるでしょう。

これをフレーミングする別の方法があります。1966年にイギリスの建築家セドリック・プライスがこう言いました。「テクノロジーが答えだった。だが一体、問いは何だっただろうか?」彼は、私達が一度止まって考えずに、テクノロジーに素早く飛びついてしまうことを指摘しています。例えば、移動手段の答えとして、車に飛びついたとします。その際、都市に実際に何をもたらすかは考えていないーこのことを彼は指摘しているのです。

ブロックチェーンとNFTは、これと同様の良い例です。私には、これに対する問いが何だかわかりません。アメリカの哲学者ティモシー・モートンが指摘するように、この他の問題や、自分たちのシステム、そしてすべてがつながっていることを理解することに今一度着目すべきです。例えば、エアコンは部屋を涼しくします。この部屋は涼しくなりますが、それは熱い空気を外に出すことによって行われます。東京はすでに暑いですが、私たちはそれをさらに暑くしたのです。私たちはエネルギーを使って物事を移動させているだけに過ぎず、結果として地球全体を熱くしてしまっているのです。この事は狭い視点で物事を見ることの危険性を表しています。

チェスプレイヤーであるサベリ・タルタコワ氏は、ストラテジー(戦略)とタクティクス(戦術)の違いについて言及しています。例えば、あなたがコロナウイルスに罹患していたら、マスクを着けますね。これは戦術的な対応です。しかし、コロナウイルスの発生をどのように止めるかといった問いは、非常に難しい戦略的な問いです。戦術的な対応は簡単ですが、戦略的な対応は難しいのです。私達は、戦略に重点を置く必要があります。

ここで、幾つか私の仕事をお見せしましょう。過去3年間スウェーデンで行った仕事は、この種の課題、システム、戦略、社会的問題、そしてデザインが実際に果たす役割を探求しようとしていました。これは行政が主導していますが、外部の人々とも協働しています。この実例の全ては『Designing Missions』に書かれており、この本のpdfは無料でダウンロードできます。

著名なエコノミストのマリアナ・マッツカートは『ミッション・エコノミー』という本の中で、大きな課題―ミッションーについて言及しています。彼女の図の中では到達すべきアイデアが下に記されているのですが、私はこの図を横向きにし、プロセスにおいて「何をすべきか」というステップがわかるようにしました。ステップは4つに分解できます。最初のステップでは課題を理解し、何をするのかという問いを立てます。2つ目のステップでは、ミッションを定義します。3つ目のステップでは、幾つかのプロトタイプとテストを開始します。4つ目のステップでは、それを大規模なスケールにしていきます。

私たちは答えを初めから知っている訳ではありません。私たちが最初にすることは、多くの異なる人々と共に、モビリティの動きや食品が現実世界でどのような状況になっているかを探索することです。探索は、観察のようなデザインのテクニックを用いて行われます。普段いるオフィスから人々をひっぱり出し、リアルな場所で観察を行うのです。

この男性は、地域の保健医療機関に勤めている方です。この男性が道に立って「なぜこの道は何もないのか」とふと口にしたことがありました。この後、別の写真を見せるのですが、その時に違いを感じていただけたらと思います。特に日本の景色と比べると、ここの周辺は何もないと強く感じられます。

ここで再び、一部だけを見るのではなく、全体的に物事を見るということについてお話しします。もしかするとこれは合気道に由来しているかもしれません。ソフト・アイ(周辺視)と呼ばれるもので、ある意味、目をぼかすような感じです。一つの細部に集中するのではなく、全体像を見ようとするのです。ここで映像をお見せします。

 

[映像](刑事ドラマ「The Wire」より)

 

ソフトアイで全体像を理解するということは、部屋にたくさんの人を集めて、システム全体を一緒に見るということです。この時、単一化した専門性の高いグループより、多様なメンバーのいるグループの方が良いです。私達は実に沢山のワークショップを行いました。特に食品やモビリティのシステムにおいて、200や300の異なる組織、自治体、産業グループ、小企業と共に見てきました。こうしたワークショップの対話からは、大判の模造紙がごちゃごちゃとした書き込みでいっぱいになっていきます。これらは、実際のシステム図で、介入ポイントを指し示しています。

その後、私達はこれら全てについて分析を行いました。詳細は省きますが、需要側と供給側のような複合的な問題も理解しようとしていたのです。詳しくはPDFで確認頂けます。

私達が見出そうとしたのは、システムに違いをもたらすための方法でした。私達は、“上流”に着目します。例えば、病院にお金をかけるのではなく、最初から人々を健康にする環境を設計すれば、病気を防ぐことができます。

これらのグラフはスウェーデンの医療コストを示しています。推移を見てみると、毎年コストが上がっていることがわかります。内訳は、予防に充てられるコストが僅か3%で、治療のコストが全体の97%となっています。治療のコストの内の8割は、生活習慣が関連している病気である肥満や大気汚染が引き起こす慢性疾患が占めています。さらにその内の8割は私達の設計してきた環境デザインと関係があります。これらの対応には交通課、住宅課があたっています。複数の課がそれぞれ専門性をもって取り組んでいるために、これらをいかに繋ぐかが大切になります。

ここで、学校給食のミッションについてお話しします。

左側が食のシステム、右側がモビリティのシステムです。私達が具体的に取り組んだのが、給食と通りです。いずれのテーマに対しても、先ほど申し上げたように、仕組み全体の中でのデザインについて言及していることが特徴です。

中にはムーンショットのような科学技術を用いた試みもありました。例えば、ガソリントラックの代わりに電気トラックを開発したこともあります。

しかし、もっと興味深い試みは、スウェーデンの全ての通りをより健康でサステナブルで、活気あふれるものにするにはどうしたら良いのかということでした。道が、社会、ビジネスの場、健康、教育、輸送といった様々な領域に影響を及ぼすことを考えられるのが、道を扱うことの興味深さだと思います。

そこで、この時は多くのワークショップを行いました。「道とは何か」という問いを深め、英語でステークホルダーと呼ばれる人々、あるいはエキスパートと呼ばれるような様々なタイプの人々と協力し合いました。右側の女性は、マイクロモビリティのスタートアップの方です。この少し退屈そうに見える男性は(実際には退屈していませんでした)自治体の都市計画の方です。健康に関する研究者やインタラクションデザイナーもいました。通常では一緒に作業することのないような人々が一堂に会していたのです。

道という言葉には、誰が管理するかという意味合いが既に含まれていると思います。道と聞くと、みなさんは交通局を思い浮かべるでしょう。これがもし、園庭であれば、園芸課ということになるでしょう。ところが実際、道は多くのことができます。あなたが道の周りにたくさんの異なる人々を集めるなら、道を使って多くのものを作り出すことができます。健康、緑、経済、社会的構造といったあらゆるものを作り出すことができるのです。

道が何のためにあるのか?という問いは、道が交通に関するものであるという考えを解放しました。道というのは、生活の重要な要素なのです。

ワークショップの中で生まれた図には、色々な要素が描かれています。テクノロジーもありますが、それのみではなく、文化や沢山の緑が描かれています。

私達はステークホルダーに解決策を求めてワークショップをしていた訳ではありません。彼らと一緒に考えた後で、いかに参加者を巻き込んでいくかということに注力しました。参加者は“生活者”と呼ぶこともできるでしょう。

Vinnovaはストックホルム市に掛け合い、プロトタイプするための道を4つ提供してもらいました。いずれも学校がある通りでしたが、活き活きとしているとは言い難いものでした。

それらの道の本当のエキスパートは毎日学校に通っているスウェーデンの6歳の子ども達です。彼らに実際にワークショップに参加してもらいました。前のワークショップでステークホルダーを対象に設計したものを、子ども達が参加しやすいよう、パーツにして提供しました。

このワークショップはスウェーデンの首相、厚労省の大臣とも行いました。正直に言うと、子ども達の方がこうしたワークショップは上手でしたけれどね。

子どもたちから出たアイデアを紹介します。

偽物のヤシの木、ガーデン、噴水、カフェといったアイデアが出ました。ご覧の通り、今日ご参加いただいている皆さんに同じ質問を投げかけた場合に出てくるものと遜色のないアイデアが子供たちから出てきました。

また、イギリスの有名なアーティストでありミュージシャンのブライアン・イーノ氏に道をデザインする原則を書いてもらいました。重要なのは、道路設計のような非常にテクニカルなシステムに、子供達やアーティスト、ミュージシャンの声を持ち込むことだと考えています。この事は道が文化を作るものであって、交通を作るものではないということを暗黙の内に示しています。

次に私達はデザイナーにプロトタイピングを開始できるキットの作成を依頼しました。子ども達が頭に浮かべた道の変化をテストできるようになったのです。

プロトタイプの素材には、スウェーデンの国産材を使って、サーキュラーエコノミーを意識したものにしました。これはコンクリートと鉄以外でも道を作ることができると示す為でした。特に今回の場合、スウェーデンの道に入るよう工場で正確にカットを行いました。

実際にその場に行って簡単に組み立てられるような設計にしています。

ご覧のように左の写真では子ども達が設計したものが実際に道に置かれています。オープンソースのキットのように、単一の道路に合わせるというより、長さや形を変えて様々な道路に置くことを想定しています。場合によっては、右の写真のようにスクーターや自転車を置いて駐輪場として利用することもできますし、あるいは社会的な営みに使用することもできます。

1965年から日本では路上駐車が禁止されたので共感しづらいかもしれないですが、世界の多くの国では路上駐車が一般的です。道を他の用途で使えるようにすることで、道から徐々に自動車を排除しているのです。例えば、自転車を置くなどして自分達が道を取り戻すことに寄与しています。異なる環境や天候でも置いてみました。

初めは6つの様々な都市で実行されましたが、今では他の都市もそれに倣い始めています。先ほどのラベルにもありましたが、実験ということが重要なキーワードで、何をやっても良い状況になるのです。道の意味を変えるということを目的にし、いきなり通り全体を大きく変えようとするのではなく、明日からすぐに始められる小さな部分から始め、最終的には全国に展開することを目指して設計しました。

この取り組みは現在スウェーデン国内の6つの異なる都市に広がっています。取り組みが単なるイベントではなく、全ての人が参加できる継続的な取り組みであることは非常に重要です。

スウェーデン最大手の自動車会社であるVolvoは、都市から車を減らすプロジェクトを行いました。こちらは、Volvo Mがカーシェアのプロモーションとして使用している映像です。VolvoのCEOは、将来的には都市における車の数は少なくなると予想しており、そのことを前提に計画立案することが我々の戦略であると語っています。そして、カーシェアリングのサービスを設計しています。非常に興味深いことに自動車業界は自分達が100年間作っていたものを減らすつもりだと言っているのです。研究によると、通りあたりカーシェアが一台増えるごとに、一つの通りにつき、8台の自家用車が削減できることが明らかになっています。映像からは、現在の道路が車で埋まっているのに対して、車が減った場合には庭が現れていることがわかります。日産、ホンダ、トヨタのCEOからもそのような発言があったら、すぐ教えてくださいね。

これは先ほど述べたようなシステマチックな取り組みを示すものです。戦術的なアプローチとは一線を画すものです。タクティカルアプローチは、デザイナーと数人の仲間達により行われますが、このプロジェクトは国営交通局や国やボルボといった組織が行うものであり、タクティカルな対応とは異なる様相を呈しています。

プロジェクトの成功の鍵は、人々を動かすことにあります。サッカーに例えるならば、いきなりゴールを目指すのではなく、ショートパスを出すことが大切です。ゴールは最初のショートパスがあるからこそ生まれるのです。

これは、ヘルシンボリの街の通りです。ショートパスにあたるものであり、私が半歩先と呼ぶものです。次のステップはこのようなものになります。木は、木箱に入っているのではなく、実際に土に植わっています。あくまで、このステップにいきなり進むのではなく、ハーフステップを踏むことで、方向を定めてボールを進めることができるのです。

市民は徐々に変化に慣れ、少しではありますが、関わりを持てるようになっていきます。これは非常に意味のあることです。

これらの素晴らしいイメージ図は、スウェーデンの建築設計事務所Utopia Architectureが描いたものです。温室や社交場、充電ステーションなどが描かれています。

このプロジェクトは、道に関して問いを立てる為のプラットフォームといえるでしょう。また、その問いだけでなく様々な問いを立てるプラットフォームがあることで、継続的なプロセスが可能になるのです。

詳しく図を見てみると、機械学習を用いて駐車スペースを管理する縁石、市民がオーナーシップを持って関与するモデルについて、鳥のさえずりに対して…というように、このイメージ図だけでも様々な問いが浮かぶことがわかります。市民を含め、複数のパートナーと一緒に公の場で問いを立てる場があることが大切です。

そして、こちらがプロジェクトに関わった市民からのフィードバックになります。スウェーデンの国民は物静かな傾向にありますが、それを踏まえてもこのフィードバックが非常にポジティブだということがわかります。しかも、これは駐車場という人々が既得権益として持っているものを奪うものであるにも関わらず、74%の人々がプロジェクトに満足しているという結果が得られたのです。

初めの方で人が写っていない通りの写真をお見せしましたが、プロジェクトの開始前と後では市民の活動が400%増加しており、現在では通りは活気が感じられるものとなっています。

私はこの取り組みを、“one-minute city” (1分都市)と呼ぶことにしました。玄関を開けてすぐ前に広がる都市、アパートの外の環境、どこに住んでいたとしても、そこが自分の空間であり、他の人と共有していることを認識することが大切なのです。日本の道はこの点でよくできていますが、スウェーデンの道では、人々は道を使わず、道は自治体のものだと考えていることがよくあるのです。しかし、自治体はそもそも人々のものです。つまり、私は道は公共の場で、あなた方のものであり、周りの人々と交渉し合える場だということを言いたいのです。この“one-minutecity”の考え方は、世界中に広まりました。私はデザイナーとして、このことについて書いたり、話したりすることで、このプロジェクトの背後にあるムーブメントを作り出す手助けをしました。そして、一過性のものでなく、社会的なムーブメントのように感じられるようになったのです。

ご存じかもしれませんが、バーニー・サンダース氏が手袋をしている写真は、ミームとしてインターネット上で広まりました。そして、誰かが、私たちが作った道の座席にバーニー・サンダース氏を座らせた合成写真を作ったのです。これは自分達が作ったプロジェクトが自分達の手を離れて、人々のものになったということであり、成功の証です。

『ドーナツ経済学が世界を救う』の著者であるケイト・ラワース氏は、私たちのプロジェクトに対して、スウェーデン人が道を駐車場ではなく、公園として取り戻していると語っています。私達はいつも、道路を庭のようにしようと考えています。ラワース氏は公園がつながりを生み、コミュニティを育てる場と考えています。

私たちは、このプロジェクトが単なる一過性のものに終わらないようにするためにもう一度、これが生み出す価値とは何かを考えてみました。もし、道路を庭に変えたら、どのようなことが起こるでしょうか。そうした価値を可視化することで、あらゆる種類の可能性を引き出すことができます。庭というのは、遊び場でもあり、公園でもあり、社会空間でもあり、劇場でもあります。そうすると、失礼ながら交通エンジニアが行っているように、道路を1時間当たりの車の台数や年間死者数で測るのではなく、道路をより健康的にしているか、社会をより和やかにしているか、生物多様性を生み出しているか、そうしたらどうなるかという観点で測ることができるようになるのです。

そこで私たちは、研究者とともに、この変化がもたらす価値を全て明らかにするために、あらゆる既存の研究を調査するプロジェクトを開始しました。例えば、道路交通の騒音を減らすと、車のエンジンが消え、鳥の鳴き声が聞こえるようになります。そこには、非常に単純で直接的な関係があり、鳥の鳴き声の多様性は、人々の精神状態を良くし、病気からの回復を早めます。その結果、医療システムにおける実質的なコスト削減につながります。私の主張は、人々を病気にさせないようにしよう、都市に鳥を再び導き、人々を健康にしようというものです。私の主張は、人々を病気にさせないようにしよう、都市に鳥を再び導き、人々を健康にしようというものです。それは、倫理的に正しいことであると共に、医療費も大幅に削減できます。

研究者のグループが彼らの全人生をかけた仕事をしてくれているので、もうこれ以上研究する必要はありません。私たちはそれを都市に送り出すだけです。これを100倍にして500種類の研究を様々なカテゴリーで行うのです。

これはリサーチプロジェクトです。交通計画ツールや道路計画ツールはどのように機能するか、実際の自治体のデザイナーと一緒に作業しながら見ていきます。

このようなリサーチプロジェクトは、システムの設計と運用の実践の方法を再び変え始めることができます。自然との持続的なつながりが増えれば、幸福につながります。このことは既存の研究によって驚くほど明白になっています。

街路樹の緑を増やすと、気温が5℃下がることも明らかになっています。気温が5℃下がるとか、今日の東京であれば35度から30度になりますよね。もちろん、空気はきれいになるし、二酸化炭素は減りますが、それだけでなく、人々はより幸福になり、よりつながりが深まります。研究によって得られたこのようなエビデンスは、交通計画の実践に生かされていないのです。

ここで、学校給食のプロジェクトについてお話しします。学校給食のミッションは道のプロジェクトと同じようなプロセスで進みました。道のプロジェクトでは全ての都市を活気に満ちたものにしました。このプロジェクトでは、スウェーデンの全ての学生がサステナブルでヘルシーかつ美味しい給食を確実に食べられるようにすることをミッションに掲げました。

スウェーデンの学校給食は、日本と少し似ており、パブリックセクターにより運営されています。1000万人規模の国において1日約230万食を提供し配布しているので、全国で最大のキッチンのようなものです。システム設計者であれば、「すごいシステムだ」と思うはずです。巨大なレバーを引くことで再生可能な農業や農業、そして物流、不動産、教育、廃棄物の循環といったあらゆるシステムを変革することができるのです。

道のプロジェクトと同様に、システムに関わるステークホルダーとワークショップを行うことから始めました。詳細には触れませんが、気になる方はぜひ本をご覧になって下さい。

そして、私たちは給食のあらゆる側面について考え始めました。道のプロジェクトと同様にワークショップで食とその意味を探索しました。学校給食はどのように地域経済、つまりスウェーデン語で言うところの「花開く地域経済」を生み出すのでしょうか。教育や健康増進にはどのように活用できるのでしょうか。

ここで紹介する映像は私たちが行ったプロモーション活動です。参加者と一緒に使うために、かなり早い時期に作りました。子供たちが学校での調理に携わることができるだろうか。食べ物の栽培に参加できるだろうか。学校から出る生ゴミを学校周辺の地域で利用できるだろうか。再生可能な有機食品をどのように入手できるか。科学や文化や教育を通じて、どのように学校教育を行うのか。こうしたことが映像に描かれています。ご存知の通り科学や文化、教育など、これらはすべて別々の部門に分かれています。何重もの政府機関があり何千もの民間企業が関わっていますが、それらはすべて、ある時点で学校のお皿の上に集まってきます。つまり、学校給食ひとつを通じてこれら全てに関わることができるのです。

既存の学校給食の予算を、安全で安価な食品に振り向けるのではなく、サステナビリティや健康、学習に対して用いることで、同じ予算で、安全な食品、健康的な食品、学習効果の高い食品、そして健康的な食品、学習に役立つ食品、そして安全な食品を提供することができます。

シェフもいるし、キッチンもあるし、農場も既にある。ですから、このような成果を生み出すのは、ある意味とてもシンプルなことなのです。教育省は学校給食を学校の教材として考えていません。建物に引き込む電気と同じように考えています。しかし、もし先ほど述べた方法を行ったらどうでしょう? 予算を変えることなく、実践を変えるだけで良いのです。

では、最後に、私たちが行ったプロトタイプの例をご紹介しましょう。

私たちは4つの自治体でプロトタイプを作成し、学校と協力しました。学校では様々な課題があり、ある学校では食育に、ある学校では食を取り巻く環境のデザインに注目していました。ここでもやはり参加型デザインが重要となります。珍しい食材の食べ方を研究しているところや、TikTokインフルエンサーのように味覚テストをしているところもありました。学校のグラウンドを使って、どんな食べ物が育てられるかに着目し、週末にはファーマーズマーケットを開催し、食事を販売していました。これは、週末に学校の校庭で行われるイベントで、既に所有している全く同じスペースを再び別の活動に使っているということになります。

こちらの映像では先生方が私たちが行った仕事について話している様子が写っています。

この仕事はデザイナーと生徒の手により行われ、学校環境を変革させたものです。

道のプロジェクトのように、人々をプロセスに巻き込むのです。

もちろん、彼らはその結果にとても満足しています。食事する場所がより良くなり、食べ物の種類も増え、子供たちはとても喜んでいます。これは道のプロジェクトと同様に、人々をプロセスに巻き込むのです。もちろん、彼らはその結果にとても満足しています。

ここで、「レトロフィット」という考え方を今一度示したいと思います。スウェーデンのプロジェクトでは、既存の学校や道路を利用しています。特にこれ以上作る必要はないのです。日本も同じです。高齢化社会のため、人口があまり増えていませんから。既存の環境を利用して、どのように異なる結果を生み出すことができるでしょうか。どうすれば学校は試験結果だけでなく、健康や社会基盤、生物多様性、緑なども生み出せるのだろうか。道路であれば、どうすれば自転車をはじめ、文化的な交流や社会生活など、自動車の交通ではない、様々なものの往来を生み出し、同時に気候変動の影響を減少させられるのだろうか。

これらのシステムは制御はできないが、相互に調整したり、今までつながっていなかったシステム同士を繋ぎ合わせることが可能だということに気づきます。このようなプロジェクトの鍵は、すべてがつながっていることを理解し、実際の場所を起点とした介入の可能性を特定することです。街路や学校、運動場、教会、プール、森など、どこにでもあるものです。北海道の森も九州の森もどちらも森であることには変わりありませんが、両者は異なるものです。だから、それを素材にして、その土地に合わせた個々の実験ができるのです。

最後に、ミッション、「場(所)」、そしてデザイナーの役割の3つについてお話します。ポイントを簡単にお話しします。一つ目は、共通の方向性を示すことです。健康的でサステナブルな道、などがこれにあたります。そして、コラボレーションに重点を置くことが重要です。

場(所)を起点としたアプローチでシステムに取り組み、その場所に既に存在する価値を解き放つことが大切です。プロトタイピングは人々が関与できるポイントを作ったり、テクノロジーをローカルの文脈に落とし込んでいく為に行うことが肝要です。プラットフォーム戦略においては、システミックに全体に対してアプローチすることでスケールさせていくことができます。デザインエージェンシーはーこの場合では行政 ですがー、レンガを接着する接着剤のような役割を果たします。場(所)を起点としたイノベーションは複雑なシステムを複雑なシステムとして維持したまま、デザインの対象とすることができます。政府、産業界などでは、システムを単純化し、単純な技術的課題のようなものに落とし込もうとする悪い癖があります。しかし、実際には複雑なシステムに対して、複雑なまま関与する方が良いのです。

最後にお伝えするポイントは、デザイナーはセメントであるーつまり、統合者であり、接続者であるということです。エージェンシーは、システム内を移動できる必要があります。医療や教育という枠にとらわれず、その間にある隙間にも入り込むことができるのです。デザイナーはストラテジックであると同時にタクティカルである必要があります。あなたは動き始め、戦術的な仕事を実践できます。しかし、システム全体を変革するためには、システム全体を巻き込む必要があります。すべてのシステムを統合するということが戦略的デザイン能力だと思います。そして、プロトタイピングを開始するポイントを見つけ、伴走する精神をもってプロジェクトの見通しをしっかり立てていくことが重要です。

ありがとうございました。


text:安井彩乃