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2022.06.24

「政策デザインラボ:サーキュラーエコノミー Vol.3 循環型で持続可能なアパレル産業のビジョンをデザインする」イベントレポート

2021年11月25日に「政策デザインラボ:サーキュラーエコノミーとデザイン Vol.3循環型で持続可能なアパレル産業のビジョンをデザインする」がオンラインイベントとして行われました。

武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所では「政策デザインラボ」の活動として、2020年よりサーキュラーエコノミー(循環型経済)とデザインというシリーズで、政策デザインの観点から議論を重ねてきました。シリーズ3回目となる今回のシンポジウムでは、アパレル産業に焦点を当てます。

 

問題提議 峯村昇吾氏

まず、FABRIC TOKYOに所属し、武蔵野美術大学大学院造形構想研究科の修士課程でアパレル産業の循環を研究する峯村氏より、ファッション産業と循環についての話題提供がありました。

ファッション産業においても循環は重要テーマになりつつあり、2021年には環境省主導で各ステークホルダーが連携を行っていく「ジャパンサスティナブルファッションアライアンス」という取り組みが始まったそうです。ここでの論点は、「循環型を目指す」こと、また、「サプライヤー・顧客に働きかけ、バリューチェーン全体の透明化に努める」とあります。峯村氏によれば、これは裏を返せば現在はバリューチェーン全体が透明とは言い難いことを意味しています。実際、一般的な服の流通と古着の流通はそれぞれ別々に語られており、両者が分断されている状態です。峯村氏はここを一つにまとめて議論するために、循環型設計の図を作成しました。この図は大きく分けて「A:循環型設計と循環型製造」「B:ビジネスモデル」「C:回収・カスケード利用」に区分けされ、それぞれ衣料がどのようなフローを辿るのかが説明されています。

峯村氏はこの図をもとに、今の古着の循環は大きく分けて「海外の中古衣料」もしくは「ウエス」の二択になっていると述べます。一番大きな循環という視点で言えば、「反毛」のルートの可能性もありますが、そのルートは今ほぼないのが現状だということです。

ここでの全体の論点として、静脈のルートに経済合理性がない状態であることが問題であると峯村氏は提議します。行政としては回収を促しますが、静脈産業側に立てば、回収量が増えたとしても、それがいい循環につながるわけではなく、いかに出口の需要(新しいリサイクル商材)をつくりだしていくのかという観点が重要であると言います。そして、現状は海外循環も多いため、いかに国内の循環をつくっていくのかということもその鍵となります。

さらに、「古着として循環させない」という視点も重要になってきます。そこで問題になるのはビジネルモデルのなかで、「いかにユーザーに長く使ってもらうか」、そして「使えなくなったものを適切に手放してもらう」ための仕組みづくりを行う必要があると言います。

 

ブランドと顧客の関係性 白水高広氏

次に、循環型アパレルブランドを実践されている白水氏(うなぎの寝所)よりお話をいただきました。白水氏は、情報投下型のブランド構築は現代では難しく、行動することで企業の姿勢を生活者に見せ続けていく必要があると述べます。SNSやWebで消費者から見られるレピュテーションの積み上げが実質的なブランドになる現代において、白水氏は「ブランドをつくる」というよりも、「行動をし続ける生態系をつくる」ことをミッションにしています。先の峯村氏が分析された循環システムに関しても、そのような一方向型のイメージ投下と、そこに沿わないものは捨てていくということから起こる廃棄や分業のシステムなのではないかと白水氏は指摘します。それに対し白水氏らは、地域文化をどう感じてもらうかという目的のもと、共感してくれる人々とネットワークをつくりながら、長期的にものをやり取りしていくというイメージであると言います。

次に、白水氏は自身の活動について、「地域文化商会」という言葉で紹介しました。地域文化を中心として、その「にないて」と、そして生活者である「つかいて」があるわけですが、それらをつなぐ「つなぎて」が不足しています。「つなぎて」が「にないて」や地域文化を解釈することで、「にないて」自身も地域文化の何を担っているのかについての意識が芽生えると言います。このような地域文化から生活者までの全体像を、生活者に伝えるのも「つなぎて」の役割であり、生活者が「にないて」や地域文化にアクセスできる関係性としての店舗や宿などをつくっているのが自身の事業であると白水氏は述べました。

さらに、短期的なニーズに応えるファッション領域と比べると、白水氏が行っている地域・工芸的領域は長期的なニーズに応えるという意味で異なっていると述べます。これらはそれぞれ対極にいるようにも見えますが、実は消費者や目まぐるしく変わるトレンドに囚われるファッション領域と、保守的で消費者をあまり見ていない地域・工芸領域といったように、それぞれ対局の視点が足りていないとも解釈できると白水氏は指摘します。現代においてはこの短期・長期の視点も人により求めるレベルは様々であり、これらの間の領域が求められているとも考えられます。

 

循環とローカルコミュニティについて 大山貴子氏

大山氏の株式会社fogでは、人を起点にした循環型社会の共創を目指し、企業や行政、市民団体などへの支援をおこなっています。現代の私たちの何気ない日々の暮らしは、無意識に直線型にものを廃棄する形になってしまっています。これを循環型に変えるためには、社会にアプローチすることよりも、人々の意識を変えることが重要なのではないかと大山氏は言います。

2021年のイギリスでの調査において、「なぜサスティナブルな生活がおくれないのですか?」という問いに対し、多くあがった回答として「情報がないから」ということがあったということを紹介しました。このことについて、たとえ自分がリサイクルに出したとしても、それは全体を見ればほんの一握りの割合でしかないといった自己満足に陥る可能性を大山氏は指摘します。その意味で、全体像の把握が重要になってきます。

スウェーデンの研究機関は、SDGsの目標に程遠い現状への危惧から、Inner Development Goals というフレームワークを開発中だそうです。これは、ものと自己との関係や認識スキル、他者や世界に対するケアや共助、などの意識の変容の5項目で、これを意識することでサスティナブルなゴールに近づくのではないかというフレームワークで、ここでも人の内面的な変化の重要性が強調されていると言えるでしょう。

最後に、大山氏は消費者の人たちが生活のなかで循環を感じることができる拠点としてつくった「élab」の活動について紹介しました。レストランとしても機能しているélabでは、地元の人がテイクアウトに自分達の家からお皿やコップを持参もらうなど、自ずと循環型の生活に近づくような取り組みがなされています。

 

アパレル産業のレバレッジポイント 加藤佑氏

サーキュラーエコノミーをテーマとするデジタルメディアの運営を行うハーチ株式会社の加藤氏は、最近香川県のアパレル会社を支援している中で、まだ着ることのできる衣類が山のように廃棄されている現状に疑問を抱いたと言います。アパレルの循環は、素材に綿とポリエステルを混ぜてしまっており、生物サイクルを回せないこと、同時に、技術的に耐久性を高めたとしても、現状は着られる服も廃棄されている状態で、これらが循環を難しくさせています。さらに、加藤氏は、循環製造、ビジネスモデル、回収・カスケード利用、政策の視点からそれぞれにアパレルのサーキュラーエコノミーの課題があることを指摘しました。

ここで、加藤氏は服の概念について問い直します。人は体温調節など身体を自然から守るために服を着ていますが、環境負荷のある素材を使った服はむしろ人を取り巻く環境を悪化させかねません。そこで、加藤氏はそもそもプロダクトづくりを環境づくりであるという概念の変換が必要であると述べます。

ビジネスモデルの観点からは、IOTやブロックチェーンを用いたトレーサビリティの重要性が挙げられます。テクノロジーにより、作り手の顔が見える商品で情緒的価値を高め、マス商品にナラティブを組み込むことは可能になるのではないかと加藤氏は言います。回収・カスケードの観点では、ファッション業界だけに閉じない循環を提議されました。現在では、マッシュルームを使ったビーガンレザーや、ジャガイモの皮を使った建材など食品廃棄から循環させることが可能で、「衣食住」を分けない循環が大事なのではないかと加藤氏は提案します。

 

パネルティスカッション

シンポジウム後半では、峯村氏のファシリテーションのもと、登壇者と本所の長谷川敦士氏(RCSC専任研究員)と岩嵜博論氏(RCSC専任研究員)とのパネルティスカッションが行われました。

 

――いかに服の情緒的耐久性をつくるか

白水氏は、自身の活動について、生活者に情報提供はするが、自分たちが選択したものを押し付けるようなことをしないよう心がけていると言います。自身は、中学生の時買ったTシャツを今でも使っていて、実際に耐久性としては問題ない訳だけれども、そのようにずっと使おうという意気込みで買うという意識をどのように醸成していくのかについてずっと考えているということでした。また、白水氏はもともと建築を学びそこから徐々に地域に興味が湧いたというエピソードから、大山氏が紹介したペースレイヤリングはもともと建築の考え方であることを長谷川氏が指摘しました。現在の服は着られる・着られないの二択になってしまっていますが、この間にも実はまだ見ぬレイヤーが存在するかもしれず、そのような想像力が我々の日常に欠けているとも言えます。

 

――着られる・着られないの間

日本の着物は、着なくなった後もほどいて別のものに仕立てるということが日常的に行われていました。それは、着物自体がそのように設計された服であったとも言えます。西洋の曲線的な裁断の服と違い、着物は体に直接フィットしない分、ある程度のサイズの変化にも着付けで対応できていたと加藤氏は指摘します。ここでの「着付ける」という介入は、現代において何にあたるのだろうと加藤氏は問います。洋服であったとしても、ちょっとコーディネートしてもらうなどユーザーとプロダクトの間の関係性を考えれば、情緒的耐久性は生まれうるかもしれません。

 

――服=ファッション?

岩嵜氏は、白水氏が自身の活動をファッションと捉えていないと述べていたことを振り返りながら、近年は服とファッションがほぼイコールのものとして扱われてきたことを指摘します。それに対し白水氏は、もともと地域文化や布の製造産業への興味からはいったこと、機能性を重視し作っていたが、それがたまたま服に分類されたと言います。ファッションはより自己表現的で、流行の移り変わりが激しいものです。大山氏はここに「愛着」というキーワードで情緒的耐久性のある愛着と、消費的な愛着の違いとは何だろうと問いかけます。

 

――自然をコントロールするように自己を書き換える人間

加藤氏は自己表現というキーワードから、人間と自然との関わりの視点から考えると、大量消費と自己表現の根っこは同じなのではないかと言います。自分という存在をファッションで書き換える行為は、自分という自然への介入であり、与えられた自然や環境を支配できるという考え方が根源にあるのかもしれません。そうであれば、この考え方をどう変えることができるのでしょうか。それは、ありのままを認められるような状態、変換をしなくても良いのだという状態を作ることなのではないかと加藤氏は言います。

 

――ビジネスモデルと価値の転換

峯村氏は、ユーザーが長く服を使うようになった時、「物を売って利益を得る」という既存のビジネスモデルからの脱却が迫られるのではないかと言います。岩嵜氏は、今までデザインは物を売るまでをその範囲としていて、その先のデザインが無かったと指摘し、これからは売る前と同じくらい「物を売った後」をデザインすることが重要であろうと述べます。既存のビジネスモデルについて、企業はとにかく数を売ることで成立する収益構造であり、一方で企業に倫理的なことを迫る社会との葛藤が起こっていると長谷川氏は指摘します。

価値について、加藤氏はバージン素材の価格が安すぎる点を指摘します。石油や木材などの天然資源は長い時間をかけて形成されているものであり、その時間と価格が見合っていない製品が多くあります。これに関しては、課税を行うなどの措置が考えられると加藤氏は言います。大山氏は、化粧品会社のLUSHが有機農家から積極的に材料を調達する「リジェネラティブ・バイイング」を推奨していることを紹介しました。人間は自然から多大な恩恵を受けており、それは物だけではなく情緒的な側面も恩恵を受けています。その恩恵の対価を意識していかなければならないと大山氏は言います。

このような価値観について、社会のなかでどのようにコンセンサスを取れば良いのでしょうか。加藤氏はこれには「文化」というアプローチしかないのではないかと言います。現在ゴミとして排出されている物質もいずれは土に還り、また天然資源も時間をかけて形成されていきますが、そのような自然のサイクルは非常にゆっくりと行われるものです。しかし、現代の人間社会がこのリズムに合わせてビジネスを行うことは果たして可能なのでしょうか。白水氏は、経済において物の価値は「価格」と「機能」で決定される一方で、文化においては「歴史」や「思想」などの情報が物の価値につながり、自身の活動においても、製品に歴史性や新たな解釈を加えることで、価値につなげていると言います。岩嵜氏は白水氏の取り組みを「不易流行」という言葉で読み解きます。「移りゆく流行」に価値を置くファッションから、「変わらないもの」にこそ価値があるのだという転換を、白水氏は模索していると言います。

 

――価値転換を促す政策について

では、このような現状について政策はどのように貢献できるのでしょうか。長谷川氏はバルセロナのスーパーブロックスを事例に取り上げます。スーパーブロックスの取り組みでは、都市のなかの事業体の多様性を保ちつつ、いかに消費エネルギーを抑えるかということを目指し、その一環として道路を封鎖し、人の滞留できる公園をつくりました。ここでは「多様性が高いほど都市は豊かである」という前提の価値観があり、そのための実装としてスーパーブロックスの取り組みがなされています。このような大きなビジョンのもとで、それが施策に落ちてくるという構図が望ましいと長谷川氏は言います。また、家電リサイクル法など、製品を購入した際にリサイクル費用が価格に組み込まれているような仕組みがアパレルにも適用できる可能性はあります。ブロックチェーンの技術などを用いて、長く保有することにインセンティブを持たせるということも夢想できると岩嵜氏は語ります。

 

まとめ

本学の山﨑和彦氏は、これまでの議論のなかでの言葉の重要性について述べました。議論の最中、「ファッション」という言葉からの脱却についての話題が多く出てきていました。服を巡る「ファッション」という言葉に代わる上位カテゴリーをどのように作るかということが重要な点であると山﨑氏は指摘します。

最後に峯村氏は、現在の問題点として、ビジネスにおける循環というキーワードが一人歩きしていることに疑義を呈し、目指すべき目標とそれに辿り着くステップを検討するために現状を正しく認識することの重要性を述べて会を締めくくりました。


text:増田悠紀子