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2020.09.04

「政策デザインラボ :行政と政策デザイン(オンライン)」イベントレポート

2020年8月14日に、武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所の政策デザインラボによる第4回オンラインイベント「行政と政策デザイン(オンライン)」を開催しました。当日は100人を超える人数が集まり、行政と政策デザインに関する興味の高さが伺えます。

今回のイベントは、政策デザインラボのメンバーでもある博報堂ミライの事業室ビジネスデザインディレクターの岩嵜博論氏と、滋賀県を拠点にパブリックデザインの活動に関わられている中山郁英氏をゲストに迎え、行政と政策デザインをトピックに議論を進めて行きました。

前半は、岩嵜博論氏から行政と政策デザイン、政策とデザインの関係性を俯瞰できるような話題を提供いただき、中山郁英氏からはフィンランドでの実践の話、滋賀での取り組みをお話いただきました。後半は、岩嵜博論氏、中山郁英氏両名と山崎和彦教授、長谷川敦士教授も加わり、前半の話を踏まえて議論を深めていきました。


「政策デザインラボと政策デザインのランドスケープ」 岩嵜博論

岩嵜博論氏からは主に「公共政策学の領域における現代的な論点はどこなのか?」、「公共政策においてデザインが貢献できることは何か?」「政策のデザインの見取り図はどのようなものか?」を議題に話をしていただきました。

「公共政策学の領域における現代的な論点はどこなのか?」では公共政策とは何か、公共政策の階層性や政策過程の段階の説明があり、公共政策の複雑性という特性について紹介いただきました。

公共政策の変遷としてクリスチャン・ベイソン(Christian Bason)氏のLeading public designから伝統的行政からニューパブリックマネジメント(NPM)、そしてポストNPMへと論点が移っていることに触れ、そのポストNPMのなかでデザインは重要な役割になり得るのではないだろうかと説明がありました。

ポストNPMのなかでは、非営利組織や企業、市民などの多様な主体に政策形成やサービス供給への参加を促す動きとして、ガバメント(ヒエラルキー型秩序)からガバナンス(ネットワーク型秩序)、政策も公共財(Public Goods)の効率的提供ではなく、成果を指標としてみるようになってきたという流れで、公共善(Common Good)への貢献や、ブリックグッズ(Public Goods)からパブリックバリュー(Public Value)の話を紹介していただきました。

※プレゼンの中で上図は両立しうるものだと説明しています。


公共政策においてデザインが貢献できることは何か?

デザインが解く問題は複雑であるとして、Horst W. J. Rittel氏Richard Buchanan氏のWicked problemについて言及し、

また、デザインシンキングとロジカルシンキングの違いとして、Damien Newman氏の提唱するThe Design Squiggleを参照しながら説明がありました。デザインの対象領域としてはRichard Buchanan氏が提唱しているFour Orders of Designの領域が有効ではないか、また、手段としてはデザインシンキングサービスデザイン思考Co-Design/Participatory DesignSpeculative Design/Designed Realitiesの考えが活用できるのでないかと話題提供いただきました。


サービスデザイン思考の6原則

  1. ⼈間中⼼
    サービスの影響を受けるすべての⼈のエクスペリエンスを考慮する。
  1. 共働的であること
    サービスデザインのプロセスには多様な背景や役割を持つステークホルダーが積極的に関 与しなければならない。
  1. 反復的であること
    サービスデザインは、実装に向けた探索、改善、実験の反復的アプローチである。
  1. 連続的であること
    サービスは相互に関連する⾏動の連続として可視化され、統合されなければならない。
  1. リアルであること
    現実にあるニーズを調査し、現実に根差したアイデアのプロトタイプを作り、形のない価 値は物理的またはデジタル的実体を持つものとしてその存在を明らかにする必要がある。
  1. ホリスティック(全体的)な視点
    サービスはサービス全体、企業全体のすべてのステークホルダーのニーズに持続的に対応する ものでなければならない。

政策のデザインの見取り図はどのようなものか?

ここでは今までの話を踏まえ、ご自身で整理している段階とのことですが、政策デザインのランドスケープの図を紹介いただきました。アクターを行政機関、民間企業・NPO、市民とし、それぞれ「デザインの対象」、「理論的枠組」、「デザイン方法論」、「デザインの担い手」として整理されています。

発表内容の詳細は、岩嵜博論氏 がmediumで公開しているので是非ご覧ください。政策デザインのランドスケープ by Hironori Iwasaki 岩嵜博論 https://link.medium.com/XuvGATwwk9


行政とデザインの交差点 -フィンランドと滋賀の事例から- 中山郁英

中山郁英氏からはご自身の滋賀での取組や、修士研究の際取り組んだフィンランドでの調査事例、デザイナーとしての行政職員という話題を提供いただきました。

フィンランドの事例では、国レベルの事例としてInland DesignD9、自治体レベルの事例としてPori市とLahti市の取組みをご紹介いただきました。

Inland Designは、フィンランドの移民局内あるデザイン&イノベーションラボになります。2017年に設立され、フィンランド政府内おける唯一のデザインラボとして運営されていました(当時)。2019年末までの期限つき組織でしたが、2020年からは内務省(Ministry of Interior)に拠点を移して活動しています。

Inland Designの事例としてチャットボット の性格をどのようにするかサービスデザインの手法を使い開発した、カスタマーサービスチャットボットの事例を紹介いただきました。

D9は、Ministry of Finance傘下のStateTreasury内に創設された、行政のデジル化推進をサポートするチームです。2017年に2018年末までの2年間という期限付きで設立されました。
当初の人員は6名(うちサービスデザイナー2名)だったのですが、活動が好評だったため、2018年には11名に増員(うちサービスデザイナー 6名 )されました。

D9自体にはデジタルサービスを開発する能力がなく、プロトタイプ やロードマップの作成、調達のサポート行う組織になります。第三者評価は好評だったものの2018年末にクローズし、DIGITAL AND POPULATION DATA SERVICES AGENCY として新しいデジタルチームを発足しました。

画像出典https://vm.fi/digitalisoinnin-periaatteet?p_p_id=56_INSTANCE_SSKDNE5ODInk_languageId=en_US

Pori市では、2017年にHellonとともに「Citizen Participation Model」という職員の働き方を市民参加型に変化させるための「業務モデル」を作成しました。

モデルは以下7つのステップから構成されており、それに合わせて職員が使用できるワークブックも作成されています。

(1) Respond to the relevant needs of the residents and their current phenomena
(住民のニーズや課題からはじめる)

(2) Target participation to real users
(実際のユーザーに参加してもらう)

(3) Clarify the goals of inclusion and communicate them openly
(参加型で行う目的を明確にし、それをオープンに伝える)

(4) Choosing the right inclusion method
( 適切な参加の手法を選ぶ)

(5) Documented, but avoiding unnecessary bureaucracy
(記録はするが、不必要な煩雑さを避ける)

(6) Not to worry about failure and to try boldly
(失敗を恐れず、大胆に試してみる)

(7) Experiment, learn, and share experiences
(実験から学び、その経験を共有する)

「Citizen Participation Model」の作成と一緒に、Pori市のブランドコンセプトも作りを行い、その紹介をいただきました。

Lahti市では、CitiCAPという市民参加型でCo2削減を目指すプロジェクトの紹介をしていただきました。現在は、個人間のCo2排出権取引排出権取引ができるアプリを実証実験中です。

滋賀県での事例は、Policy Lab. Shigaという、滋賀県庁職員有志によるデザイン思考の考えを用いた政策研究プロジェクトについて紹介いただきました。「人間中心デザイン」とは何か、定性調査とはどのようなものか、その基本的な姿勢を学び、最後には提言書としてまとめられ、知事との意見交換も行っています。

画像出典:http://policylab.shiga.jp/

国と自治体のデザイン実践における違いとして、観点としては「デザイン手法活用の目的」、「ワークショップ参加者」、「市民(ユーザー)の位置づけ」の3つあり、それぞれ以下のような違いがあるのではないかと説明いただきました。

また、行政組織とデザイナーの関係性として大きつ3つ分けられ、

1:行政組織の外からデザイナーがおり業務委託などで関わる

2:外部のデザイン専門家が組織の中に入る

3:行政職員の方がトレーニングを積みデザインの能力を身に着ける

この3つの関係性があり、これからは2番目と3番目の形で活躍されるデザイナー が増えていくのではないか、また、「行政組織は政策立案を担うアクターの1つ。政策の立案と実行のためには、民間企業、サードセクター、そして地域コミュニティや市民、政治家などの他のアクター抜きには語れない」として、ビクター・ペストフ(Victor Pestoff)氏の福祉ミックスモデル(The Welfare mix)が考え方の参考になるのではないかとご紹介いただきました。

最後に、中山さんご自身が調査されて印象に残った言葉として、以下の3つを取り上げています。

「組織内でプロジェクトを行うには、信頼が重要。その信頼は時間と共に育つ。」

「共感することはアウトソースできない。」

「一日の研修でデザイン思考が実践銭できるわけない。」

以上が岩嵜博論氏と中山郁英氏の発表パートになります。後半は、ディスカッションとして、山崎和彦教授と長谷川敦士教授も加わりより議論を深めていきました。


ディスカッション -行政における政策デザインの可能性-

岩嵜:山崎先生の方から何か今の話を聞いてこんなこと思ったとか、フィードバックなどありますか?

山崎:今日は本当に、行政とデザインに関わることや取込みを俯瞰する形で見えてきてすごくいいなと思っています。一番気になるのが、進んでいるという割にはフィンランドの取り組みもそうですが、滋賀も活動が1年だったので、なぜ1年や2年で終わったのかが疑問に思います。そのため、その辺のところをせっかくなので、中山さんに教えていただけると

中山:実際、組織として続いたのは2年3年が多いです。また組織の中でどう取り入れていくかというところは、試行錯誤が続いている段階なのかと思っています。

例えばのヘルシンキデザインラボは、行政におけるデザイン実践の先駆けと言われ有名ですが、4年で終わっています。もちろん実験的なプロジェクトとして、期限付きということは当初から決まってたことではありますが、行政の中に定常的に取り入れていくというところは、まだまだそこまで至ってない面があるとーーー。

その中で、私が面白いなと思うのは、そういう期限付きの組織で活動していた人が、他のデザインラボのような組織やサービスデザイン企業に場所を移して活躍していたりします。。組織は変わりますが、行政とデザインという文脈には関わっており、大学や外部のコンサルティングファーム、シンクタンク、新しくできた国や中央省庁の組織や自治体のデザインラボなどなど組織の枠を越えて人材としては継続的に何かしら関わる機会があるなと思っています。

岩嵜:質問の中にも、クリスチャン・ベイソン氏のマインドラボも先進的な取組み事例ですが、こちらも活動休止していて、そのあたり色々諸説あると思いますが、一つは政治的な・・政治に巻き込まれて無くなってしまうということはあるみたいで、公共政策を考える上で、政治家の存在を無視はできなく、一番民意で選ばれている存在で、特に民主主義であれば権力をある種代弁してるわけですよね、その辺りも何かあったりするという話は時々しますよね。

長谷川:MindLabは、通常短期間の期間限定で進められる公共イノベーションラボとしては異例の長期間運営されていました。岩嵜さんの話も聞いて思いましたが、行政の組織は変化をさせることが難しいので、デザイン組織でも一度作ってしまう(常設のものにする)とターミネートするのは結構大変だと思います。中山さんの話にもありましたけど、デザインのアプローチ自体不確定なので、これを恒常的に行うと今のうちに決めてしまうことへのコミットというか、何かエビデンスを作り行うことは不毛なので、登録されたイノベーションラボは、どこも期間限定で本当に2年とか、そういう期間でやっているということは、ある種の健全さというか、仕組み化してしまって形骸化してしまうことを防ぐためには割と真っ当なのかなと思ったりもします。

ディスカッションはこの後も続きますが、本レポートはここまでとさせていただきます。また、本レポート内容は発表内容の全てでは無く、一部を抜取り掲載しています。政策デザインラボではこのようなイベントを開催しているので、興味がある方はぜひ次回のイベントにご参加ください。ありがとうございました。


Text:稲葉貴志