2021.02.26
「政策デザインラボ:サーキュラーエコノミーとデザインVol.1サーキュラーエコノミーの現在地」イベントレポート
2020年10月2日に「政策デザインラボ:サーキュラーエコノミーとデザインVol.1サーキュラーエコノミーの現在地」がオンラインイベントとして行われました。
武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所に設立された「政策デザインラボ」の活動として行われた今回のイベントでは、循環型の社会モデルの実現という、日本・世界が直面している大きな課題に取り組みます。今回、サーキュラーエコノミー(循環型経済)とデザインというシリーズで、制作デザインの観点からサーキュラーエコノミーの現在位置を確認し、今何を考えなければならないのかを明らかにすることを目的としています。
シリーズの初回となる今回は、サーキュラーエコノミーの専門家の大山貴子氏、サーキュラーエコノミー先進国アムステルダムに在住し、サービスデザインにも造詣が深い吉田和充氏にお話を伺いながらデザインの可能性について議論しました。
サーキュラーエコノミーの現在とこれから 大山貴子氏
大山貴子氏が代表を務めるfogでは、自然、人の暮らし、企業、組織、自治体が、この先成長していくために人間と自然が共生する生物多様性のバランスを理解し、持続的で安定した状態を”再生”していくような働きを事業を通して行っています。そして、人と自然が共存する、”ここちのよい社会”をデザインしていくことを目指しています。今回は、サーキュラーエコノミーの正しい理解を深める為に、その実践において誤解されている事柄や国内外の事例を通して、”ここちのよい社会”をつくる為に求められることは何か、お話をして頂きました。
サーキュラーエコノミーとは
サーキュラーエコノミーという言葉が日本ではあまり浸透していないと感じている方も多いと思います。サーキュラーエコノミー=循環型経済と訳すことができますが、リサイクルやリユースと、サーキュラーエコノミーがどのように違うのか、その本質を押さえるためのポイントについて、大山氏が語りました。
現代には、素材調達→生産→消費→廃棄が直線的に繋がるリニアエコノミー(直線型経済)と、リサイクリングエコノミーと呼ばれる、廃棄物は出すものの可能なものはリサイクルして有効的に使おうとする経済、この2つが行われています。
対して、サーキュラーエコノミーとは生産からずっと循環し続けることで、ゴミをほとんど出さない経済のことを指します。ゴミを捨てずにリサイクルすることやリユースすることをサーキュラーエコノミーと捉えている人が多くいますが、廃棄物の再資源化はサーキュラーエコノミーの一側面にすぎない、と大山氏は指摘します。
正しくは、原材料調達から生産、購入、廃棄するまでのサプライチェーンの川上から川下の全工程において再設計・再定義を行い、全工程において資源を循環しうるモデルに変えていく経済のことをサーキュラーエコノミーといいます。
サーキュラーエコノミーを分かり易く理解するために、産業廃棄物処分業として事業を行っている株式会社ナカダイの代表取締役・中台 澄之氏の「サーキュラーエコノミーは『捨て方』をデザインすること」という言葉を紹介しました。
「『捨て方』をデザインする」ことが、どのようにサーキュラーエコノミーに繋がるのか、大山氏は事例を交えながら次の3つのポイントについて解説しました。
『捨て方』をデザインする サーキュラーエコノミーの3つのポイント
「『捨て方』をデザインする」を分かり易く理解する為に、ドライヤーを例にあげました。
産廃業では、ドライヤーをリサイクルするのはとても大変だといいます。リサイクルするためには、ドライヤーを、金属、プラスチック、コード、といったマテリアルごとに分解しなければいけません。しかし、ドライヤーは生産される時点で、分解や再生することを考えてデザインされていないので、リサイクルするには手間がかかかり過ぎるという理由で廃棄されてしまいます。
つまり、原材料調達やプロダクトデザインの時点で、「『捨て方』がデザインされている」= 「分解・再生することを考えられている」ということが、サーキュラーエコノミーの1つ目のポイントです。
2つ目のポイントは、最後に廃棄されるものを再利用するという側面だけではなく、消費者には見えていない場面で廃棄されるものを無くすことです。例として、あらゆる商品の梱包材が挙げられます。
食品を提供するまでの流れを見ると、生産・取次・販売の各工程において異なる梱包がされることで廃棄物を余計に生んでいることが分かります。
それを解決する例として、googleカフェテリアでの取り組みを紹介しました。googleカフェテリアでは、食品の生産から提供までの梱包を一律にすることで、ゴミを減らしています。これは、社員数が多い会社だからこそできることである、と大山氏は評価しました。
3つ目のポイントは、廃棄という概念を再考し、ゴミをゴミではなく資源・原材料として主観を改めることです。そうすることで、廃棄されてしまうものを資源として次のライフサイクルに繋げることができます。そのために、商品を生み出す作り手には、商品開発や原材料調達などの生産時に製品寿命と素材レベルの2次利用、3次利用といった長期的な循環・再生を視野に入れながら、商品のデザインをしていくことが求められます。
サーキュラーエコノミーにおいて、よく陥る罠
サーキュラーエコノミーに取り組もうとする人々が陥りやすい3つの罠が存在すると大山氏はいいます。
1. 回収したものが100%再生されない
ペットボトルの再生の現場では、再生するうえでプロダクトラインが大量生産に適応していなければ、回収しても廃棄されてしまう、という問題に陥ってしまうことがあります。回収したモノの再生が100%ではないけれど、0よりは良いというモデルが存在してしまっている現状について、大山氏は指摘しました。
2 . 原材料調達の規模
2つ目の罠は、フードロス問題において捨てられてしまう食材を使って商品開発をしようとする時、どのくらいの量を原材料調達として確保できるのか、という規模感についての誤りです。原材料調達をキロ単位で捉えていると、エコノミー(経済)という動きには繋がりません。原材料調達の視野を全国にまで広げ、トン単位の規模で考えなければ、ただの小さな物づくりとしての働きしか持ちません。
3 . 再生のための製造ラインの確保
3つ目は、メーカーを横断したリターナブルなパッケージの回収・再生モデルで陥る罠です。パッケージの回収・再生の取り組みは素晴らしいのですが、新しい製造ラインを設置する必要があり、採算が合わずに頓挫してしまうというケースが起こりうることを想定しなければいけません。
良い例として日本の酒屋における一升瓶の回収・再生のモデルを挙げました。それは使用後の瓶を洗浄し酒屋に戻す、洗瓶業という仕事が確立しているからこそ成り立っていると大山氏は評価します。
サーキュラーエコノミー=欧米型経済概念?
サーキュラーエコノミーの先進国としてアムステルダムが挙げられますが、「日本が先進国のモデルを真似するのでは抜本的ではない」と大山氏は考えます。
ヨーロッパと日本では、ゴミの処理量や生産の形、エコの概念などの前提条件が異なります。なので、ヨーロッパのモデルをそのまま持ってきても、日本には適用できません。つまり、日本またはアジアでのサーキュラーエコノミーのモデル確立を目指すことが求められています。
ヨーロッパでは、ポストコロナの経済復興に「グリーンリカバリー」を掲げています。これまで使われてきた経済・社会システムは20世紀後半の外部環境が安定した状況下において作られてきたものです。しかし、21世紀に入りリーマンショックやウイルスによる感染症拡大など、外部環境の変動が盛んです。新型コロナウイルス感染拡大のような社会的ショックがあったときにも経済が成り立つような、ショックがあったとしても耐え得る外部環境に影響されない強靭性をもった経済・社会システムへの転換が求められているのです。
この議論はリーマンショック後にも行われましたが、当時は「グリーンリカバリー」や「サスティナブル」を無視して経済復興を優先したために、経済は良くなったが、環境は悪化したという経緯がありました。
これを繰り返さないために「グリーンリカバリー」の議論が持ち上がるヨーロッパの背景には、「目標主導型」で、「明確な時間軸と到達点(ありたい姿)」を掲げ、従来の延長線上にない斬新な発想で仕組みを変革する「バックキャスティング」や「フォーサイト」を主軸に据える欧米の政策デザインの存在があるといいます。
ヨーロッパのサーキュラーエコノミーのモデルを日本やアジアにそのまま適用することはできませんが、政策の在り方について参考にするべき所はあると大山氏は考えます。
国内外導入事例
「レジリエンス×循環」 台湾
台湾はサーキュラーエコノミー先進国のひとつです。中国との緊張関係の下で限られた領土の中で、いかに経済循環をしていくかを考えざるを得なかったことが契機となっています。領土の中で捨てられたものを埋め立てていくことが、効率的ではなく限度があると判断し、過去20年以上に渡ってサプライチェーンの変革を進めています。国・地域ごとの資源リサイクル効率ランキングはドイツに次いで世界2位という実績もあります。政府としても、2016年にサーキュラーエコノミーを経済成長に向けて注力すべき7事業の1つに挙げていて、台湾は受託生産の実力を長年にわたって蓄積しており、サーキュラーエコノミーの観点では今後も力を持っていく地域だと言えるでしょう。
「デジタル×循環」 バルセロナFab City
2014年にバルセロナ市長は2054年までに「地域で消費するあらゆるものを生産する都市」を目指すFab City宣言を掲げました。Fab Cityとは、データを使って生産と消費、循環をローカルで完結させる自立分散型の都市像と定義されます。今までのプロダクト生産の流れでは、資源の生産から製造、流通、消費、廃棄をすると世界一周してしまうほど、それぞれが点在していました。
その全てを、バルセロナ市内で生産、消費、循環することを目標にしています。デジタルを活用することで、地域内コミュニティのレジリエンスを高めていくサプライチェーンの再設計を目指して政策を行っています。
「まちづくり×循環」 薩摩川内市
薩摩川内市では、循環経済×次世代まちづくりをテーマにした実装拠点「Satsuma Future Commons」の開発が行われ、大山氏自身もこの活動に関わっています。薩摩川内市には原発があり、今まではそれを資金源に地域が循環していました。しかし、市民や自治体の人々には、このまま原発に頼った状態で今後は大丈夫なのかという不安がありました。そこで、本当に持続可能な産業拠点を作っていこうという思いからこのプロジェクトが発足したといいます。九州という土地柄では、資源の豊富さや資源の2次利用・3次利用する際の再生までの循環が早いことから、東京などの都心部に比べサーキュラーエコノミーに向いていると大山氏は感じています。
サキュラーエコノミーのポイント
大山氏は、ここまでの講義のまとめとして4つのポイントを押さえて貰いたいと語りました。
1, サーキュラーエコノミーは循環し続ける経済・社会システムの仕組みのこと。これにはサプライチェーンの川上(原材料調達)から2次利用、3次利用の資源循環モデルをデザインする必要がある
2 , ヨーロッパ主導の輸入・植民地的意識ではなく、ユニバーサルモデルを意識せよ。
3 , 日本においては都心よりも生産&消費のサイクルが狭い地方にサーキュラーエコノミーの希望あり。
4 , 資源の枯渇や気候変動といった観点から、長期的視野でみたときに企業はサーキュラーエコノミー型ビジネスを設計いていかないと、持続可能ではなくなる時代がくる。(むしろ人間も暮らしていけなくなる…)といった意味で、「市民の意識を変える」レベルでなく、政策としてサーキュラーエコノミー型ビジネスを推進していかなければいけない。
アムステルダムのサーキュラーエコノミー 吉田和充(ニューロマジック アムステルダム)
吉田氏は2016年にオランダに移住し、Neuromagic Amsterdam BV CEOに就任しました。「クリエイティブでGOODをつくる」をコンセプトに広告代理店、コンサルティングファーム、商社のような事業を通して、様々な活動を行っています。オランダ・アムステルダムはサーキュラーエコノミーの分野において世界最先端都市といえます。今回は、その事例の紹介や背景について語って頂きました。
サーキュラーエコノミーは儲かる
冒頭で吉田氏は、サーキュラーエコノミーは儲かるから実践するのだ、と参加者たちに伝えました。
オランダがサーキュラーエコノミーに積極的に取り組んでいる背景のひとつには、「儲かるから」という理由があるといいます。そこが日本とは違う最大の点だと吉田氏は語ります。今までは、原材料の生産から消費までがひとつの市場でした。それが、サーキュラーエコノミーを実施する事で、前述の市場に加えて、消費後のモノの回収から新たな原材料として生まれ変わる流れの中に、新たな市場を築くことができます。この点で、サーキュラーエコノミーは儲かると捉えているといいます。
また、ヨーロッパにおけるオランダという小さな国では、隣国の強い力を持つ国々と競い合ってきたという歴史から、いち早く新しいことを始めて、他国に利用してもらい、そのインフラを整えることを得意としているという背景もあります。このことから、国内でサーキュラーエコノミーを導入する際には、「どのようにしたら人々がサーキュラーエコノミーに移行するか?」という議論はされないといいます。いち早く利用してもらいインフラを整えてしまえば「儲かるから」人々も自然にサーキュラーエコノミーにシフトしていくという流れが出来ているのです。
この、「どのようにしたら人々が移行するか?」という議論がなされず、素早く政策に取り組める速さが日本とオランダのサーキュラーエコノミー普及率における大きな差であると吉田氏は指摘しました。
アムステルダムの事例紹介
オランダ・アルステルダムでは、Consumer goods・Food・Architectureの3つをサーキュラーエコノミーの重点項目として掲げています。この3つとは、つまり、衣・食・住であり、生活における全てが重要項目であるということです。
吉田氏は、アムステルダムのサーキュラーエコノミーの事例をConsumer goods・Food・Architectureの3つに分けて、それぞれ紹介していただきました。
Architecture
MADASTER
引用:https://www.madaster.com/en/our-offer/Madaster-Platform
2050年にサーキュラー率100%を掲げるオランダでは、その目標に先駆けて、建築資材の全てを登録制にし、IDによって管理にするという政策が行われています。建築が、いつ、どこで、何を使って、どういう状態で作られたのか、ということを全て情報化しているといいます。現在では300万平米以上の建築がこのデータベースに登録されているそうです。
例えば、「Tridos Bankという建築には165,312本の釘が使われています」というような情報が全てデータベース化され、建築の資産価値を決める基準となっています。この政策は、建築がいずれ壊されるという前提の元、大きな役割を持っています。建築を壊した時、そこに使われている建築資材が再利用できることを考えてデザインされているかが、このデータベースによって評価できるといいます。
2020年に世界ではじめてこの法律を制定したオランダは、他国にその仕組み作りを教える立場となっています。現在では、ノルウェーやスイス、台湾が少しづつ導入し始めているといいます。
Blue City
引用:https://www.bluecity.nl
Blue Cityは温水プールの施設をそのまま使い、コワーキングスペースとして活用する建築のリノベーションによる取り組みです。Blue Cityでは地元での循環を意識して活動しています。コワーキングスペースには、地元で廃棄されたプラスチックゴミを使って建築資材となるブロックの作成や、レストランで出たコーヒーかすをベースにした栽培キットの作成など、サーキュラーエコノミーに取り組むスタートアップが集まっています。スペースが広く、研究・実験ができるラボの設備が整っていることから、入居希望者は多数いるようです。
Food
Instock
引用:https://www.instock.nl/en/restaurant/restaurant-amsterdam/
Instockは賞味期限が切れた食品を回収し、その食材だけで毎日のメニューを作っているレストランです。回収された食品は倉庫に集められ、レストランで使用される以外にも、一般公開し市民が購入することもできるようになっています。
DE KAS
引用:https://restaurantdekas.com/eng/about-de-kas
DE KASはアムステルダムにあるレストランです。緑化地帯にある大きな温室をそのままレストランとして利用し、その日その場所で取れた食材だけを使い料理を提供しています。フードマイル(食料の輸送距離)ゼロやコンポスト(生ゴミを堆肥にする)という視点でも、環境に配慮したレストランになっています。
PicNic
引用:https://picnic.app/nl/
オンラインの食品販売において、98%が生鮮食品以外の食べ物といわれています。PicNicは、オンライン食品販売における残り2%の生鮮食品販売に特化したサービスです。
農家から直接仕入れを行いサプライチェーンの無駄を削ぎ落とすことで、安く買うことができ、食料の無駄を減らすことにも成功しています。また、宅配に使うトラックを電気自動車として開発を行うなど、新しい流通の方法もデザインしています。
Consumer goods
avantium
引用:https://www.avantium.com
avantiumでは100%土に戻る素材を使用した、ペットボトルの開発を行なっています。某有名飲料メーカーもこのペットボトルを導入予定だといいます。リサーチセンターが元になり、サキュラーエコノミーに特化したプロダクト製品の開発に移行する企業が増えているといい、avantiumもそのひとつです。販売の分野だけではなく、リサーチの分野からサーキュラーエコノミーが浸透しているという良い事例であると紹介しました。
Gumshoe
吐き捨てられたガムを回収し、プラスチック成分を抜き取り靴をつくるという取り組みで、アムステルダム市が主体となり行なっています。日本の行政は実践しないような突飛な事例が、日本とアムステルダムの政策の現場の違いを表しているように感じます。
オランダは実験思考
オランダ・アムステルダムの政策の策定の速さや、柔軟さには次のような背景や人柄が関わっていると吉田氏は語ります。
オランダという国は、列強に囲まれ、国土が狭く、人口も少ない、資源もない、という状況で何ができるかということを常に考えてきた歴史を持っています。また、国民の半数以上は無宗教で、それ以外にはキリスト教のプロテスタントを信仰している人が多くいる背景から、華美な装飾をあまり好まないという特徴を持っているといいます。そして、儲けることをタブーとしない、商売人気質を併せ持っています。これらの背景から「他の国にどうやったら使ってもらえるか」を常に考え、どこよりも早く実施するという、究極の利他主義的利己主義の国であると吉田氏はいいます。
吉田氏も大山氏と同様に、オランダの事例をそのまま日本に適用することには無理があると指摘します。しかし、日本も元々は里山的な暮らしの中でサステナブルな生活を送っていた歴史を持っています。その暮らしをもう一度見つめ直してみることが、日本にサーキュラーエコノミーを普及させる手掛かりになると吉田氏は語りました。
オランダでサーキュラーエコノミーが普及しているのには、更に3つのポイントがあるといいます。
1つ目は、「ボトムアップが盛んな社会形態」であるということです。行政は、市民からやスタートアップからの提案に巻き込まれていく事に積極的で、それを得意としています。
2つ目は、「すぐやる」という国民性です。面白いことや新しいものが好きで、良いものは積極的に取り入れて実践していきます。吉田氏はオランダ人から「日本人は勉強が好きだね」と言われたことがあるといいます。日本人は勉強してから物事を進める傾向にありますが、オランダ人は勉強から取りかからずに、とにかくやってみるという行動力を持っているのです。
3つ目は、「失敗を恐れない」ことです。日本人は、失敗したらどうするかということを、実行する前に考えてしまいます。事前に勉強をするのも、失敗をしない為と言えるかもしれません。しかしオランダの人々は、失敗した時のことは考えずに、やりながらどうするか考えていけば良い、という意識を持って物事を進めていきます。やりっぱなしのプロジェクトが多数存在するのも事実ですが、オランダ人には失敗を失敗のまま終わらせず、全く別の取り組みに繋げていく応用力にも長けているといいます。
パネルディスカッション
おふたりの講義の後、大山氏、吉田氏、に加え岩嵜博論氏(政策デザインラボ・博報堂)、モデレーターとして本所の長谷川敦士氏(RCSC専任研究員)にも参加して頂き、パネルディスカッションを行いました。
ーー政策の現場に市民やあらゆる職業の人々が介入してくることで、政策の現場で活発な議論や実践が行われることについて。
ディスカッションの最初の議論では、アムステルダムだけでなくヨーロッパで行われる政策の、その先にある生活の豊かさや審美性が保たれていることを評価し、「デザイン×政策」という点においてヨーロッパには敵わない、と口を揃えて語りました。そこには、市民が自らの問題意識に取り組み、リサーチ・実験を行い、行政へとボトムアップしていく仕組みが、行政側から市民に提供されているという背景があると大山氏が紹介しました。
また、ヨーロッパでは政策決定や様々な取り組みにおいて、デザイナーが介入することは既に当たり前となっています。最近では、哲学者や歴史学者、文化人類学者などの研究者が政策の現場に入ることで、歴史から学び政策を考えているという事例も多く存在しているといいます。研究者が社会の取り組みに介入してくることがヨーロッパでは珍しくなく、デザイン事務所の立ち上げに哲学者や歴史学者が加わることもあるといいます。つまり、研究者が社会的にポジションを持っているということが重要な点だと大山氏が語りました。
ーーサーキュラーエコノミーに取り組む上で、気候変動にポジティブな影響を与えるためには、長期的な視点だけが求められるのか。その視座の持ち方について。
気候変動においては、短期的な視点に変容していかなければいけないと大山氏は指摘しました。今年は、例年に比べ暑かったということが、気候変動が目の前まで迫っているという、メッセージであると痛感しなければいけません。
長期的な視点の持ち方では、「家業を継ぐ」という日本の文化においてサーキュラーエコノミーの意識を持つ人々が増えてきているといいます。なぜかと言うと、家業を継いだ者は30年~40年後、次の代に何を残せるかと当然のように考えます。この意識が必然的にサーキュラーエコノミーに取り組まなければいけないという思考に繋がってきているそうです。
日本型のサーキュラーエコノミーを進めていく上で、ミッション型で動くのではなく、継続することに意味を持つ「家業」的な意識設定がヒントになってくる、と大山氏は語りました。
ーーサーキュラーシステム思考において、未来洞察力という視点を意識すべきだと大山氏は言います。バックキャスティングにより、不確実・非連続な未来の兆しを探索し、現在から未来へ向けたアクションプランニングを考えるということです。
ヨーロッパにおいて、Co-designingの前に Co-dreamingを大事にしましょう、ということが言われはじめたといいます。未来を語る上では、情報の収集の前に一度 Co-dreaming(妄想を膨らませる)ことで、目の前に見えている課題だけではない事に取り組むことができるというプロセスを大切にしています。
こんな未来もあり得るんだという事に考えを広げておかないと、精度の低いアクションにしかならないので、Co-dreamingという言葉はとても良い、とモデレーターの長谷川氏も賛同しました。
ーーアムステルダムにおいては、歴史学の介入や未来洞察、Co-dreamingという意識もすでに当たり前のものだ、と吉田氏は語りました。では、どのようにそれが実現されてきたのでしょうか。その経緯について語りました。
それは、やはりオランダが持つ歴史によるところが大きいといいます。元々は、水の下にあった国であり、現在も海抜0mが国土の1/3という状況が、国民に明日土地がなくなるかもしれない意識を持たせているといいます。印刷機が発明された当時、世界の出版物の2/3がアムステルダムで印刷されていました。つまり、世界中の知識の2/3がアムステルダムに集約されたことで、多くの知識人や画家が集まって来たという歴史があります。それにより、最先端の科学都市として成り立ってきたことが、今も人々の意識の中に存在していると吉田氏は語りました。
そういったことが、未来志向やバックキャストを得意とし、他国がやっていないことを最先端で実践することに繋がっているといいます。また、それが小さなアクションに留まらず、システムやプラットフォームを作るという、より大きな働きを持つような仕組み作りという点でも優れていると評価しました。それらが、サーキュラーエコノミーだけではなく、同性婚や安楽死、大麻の解禁などを押し進めることができる要因であり、サーキュラーエコノミーの普及はその一部だと捉えることができるのです。これらのことから、オランダは知財戦略国家と言い換えることができると吉田氏はいいます。
ーーヨーロッパが持つサーキュラーシステム思考の幅の広さを日本に活用したいと考えたときには、大山氏が講義で語った地方都市での自立分散型社会がヒントになってくるのではないだろうか。
日本において地方都市では、サプライチェーンの川上から川下までの生産現場の人の顔が見えるが、都市部ではサプライチェーンに関わる人の顔を見ることは難しいといいます。それらをつなげていくサービスデザインの介入や、中の人たちの設計が重要だと、大山氏は語ります。
吉田氏は、サキュラーエコノミーの普及にはその土地の大きさが重要だと指摘します。オランダの国土は九州と同じほどの大きさしかなく、小さいからこそやり易いといいます。ドイツやイギリスでもサーキュラーの取り組みがされていますが、国土の大きさから、地域ごとに取り組みがバラバラになってしまい、他国に打ち出せるほどのまとまりを持っていません。
アムステルダム、台湾、に加え大山氏が取り組みを行なっている九州という3つの土地は、国土の大きさも同じくらいで、人口も1500万人~2000万人という共通の点が、サーキュラーエコノミーの”ここちよい循環”が生まれるヒントになるのではないだろうかという議論が行われました。
ーーアムステルダムでは、スタートアップだけではなく大企業もサーキュラーエコノミーにシフトしているのだろうか。
吉田氏は、石油販売のShellを例に挙げました。Shellは石油販売だけでなく電気や再生可能エネルギーに事業をシフトし売り上げを伸ばしているそうです。このように、アムステルダムではスタートアップだけでなく大企業もこぞってサーキュラーエコノミーにシフトしているといいます。ヨーロッパではどのビジネスにおいてもサーキュラーであるということは大前提で、声高に言うようなことではなくなってきていると吉田氏は指摘しました。
日本の大企業がサーキュラーエコノミーに移行していくには、コラボレーションという視点がヒントになっくるのではないかと大山氏は言います。例えば、スターバックスのコーヒーかすを牛の飼料に利用するという試みでは、メニコンが開発途中でやめていた乳酸菌の発酵に関する研究によって、見事に牛がコーヒーかすを食べるようになったという事例があります。このように、企業がそれまで世には出せずに蓄えてきた経営資産を、コラボレーションという横軸に応用することでサーキュラーエコノミーの普及に繋げることができるかもしれないと語りました。
まとめ
パネルディスカッションは1時間かけて行われ、日本がサーキュラーエコノミーに移行できない問題点や、その問題点を少し変えれば日本独自のサーキュラーエコノミーを実践する事ができるのではないか、という議論がされました。その為には、政策の現場にデザイナーが介入することや研究者の役割が重要になってくると言えるでしょう。
サーキュラーエコノミーは「やらなければいけないこと」ではなく、新たな市場を生むビジネスとして捉えるという視点の持ち方についても、考えるきっかけになるイベントとなりました。
text : 若狭風花