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2025.11.25

【Vol.2】 Ichigaya Innovation Days 2025 ~参加型の未来~ 対談企画

2025年11月28日・29日に行われる、「Ichigaya Innovation Days 2025 ~参加型の未来~」の開催に向け、
本イベントの立ち上げや自律協生スタジオ設立に深く関わった、武蔵野美術大学 大学企画グループ長(連携推進担当) 河野 通義さん、
日本総合研究所 創発戦略センター所長 松岡 靖晃さんのお2人に、「参加型の未来」をテーマに語っていただきました。

*イベントの詳細はこちらからご覧ください。

Ichigaya Innovation Days 2025 ~参加型の未来~

武蔵野美術大学 大学企画グループ長(連携推進担当) 河野 通義さん(写真左)
日本総合研究所 創発戦略センター所長 松岡 靖晃さん(写真右)


自律協生スタジオのこれまでとこれから

河野 2022年11月から自律協生スタジオを拠点に両者の共同研究が始まってちょうど3年の節目を迎え、成果も課題も見えてきました。

松岡 研究プロジェクト(I)「地域における自律協生社会の実現」では、若杉先生(武蔵野美術大学若杉教授)と井上さん(日本総研の井上チーフスペシャリスト)が3年間停滞することなく研究と実践を継続し、半年に1回Convivial Design Forumの場で研究の進捗を発信し、また企業や地域での優れた活動を共有し合う勉強会「Convivi Lab」を毎月やり続けていますよね。お二人が共同研究の土壌を育ててくれていると実感しています。

河野 若杉先生と井上さんの取り組みは、最初から社会に対して開いているんですよね。コミュニティを作ったり、外の人の参加を促したり、そのプロセスを見せることも含めて研究になっているから分かりやすい。普通共同研究やりましょう、って言ったらクローズドになりやすい。クローズドにすることで、研究成果の確度や社会的影響をたかめることは普通だと思いますし、最終的にできたものを、自信を持って社会に出す方が多分スタンダードじゃないですか。お二人のように研究プロセスを常に開きっぱなしにするのはとても難しいし、珍しいことだと思うんです。

松岡 そうですね。他にも、研究プロジェクト(II)「政策のためのデザインアプローチ」では、岩嵜先生(武蔵野美術大学の岩嵜教授)と八幡さん(日本総研八幡プリンシパル)による未来対話を核にした市民参加・市民エンパワーメントのデザイン研究が始まったり、長谷川先生(武蔵野美術大学の長谷川教授)と若目田さん(日本総研若目田シニアスペシャリスト)の子どもとプライバシーに関する研究も1年ぐらい続いています。複数の研究が生まれているのは、IIDのような研究成果を紹介するイベントを通じて両者の求心力が働いているからですよね。

河野 次のステップは、複数の企業と複数の研究者、複数の自治体と市民なども参加するような共同研究に発展させることかですね。本当の意味での参加型の共同研究をやれたらいいけど、どうやったらいいのか、手段がわからないというのは、ある意味面白い状態だと思います。

松岡 様々なステークホルダーに研究を開くことには大賛成で、そうすべきなんですけど、開けば開くほど変数が多くなり、不確実性が高まりますよね。組織が守るべきクオリティやスケジュール、アウトプットを担保しながら、どう取りまとめていくのか、この辺は難しくないですか?

河野 そこで、大学という組織をうまく使ってもらうのが良いかと。我々は私立ですが、大学はそもそも公共性が高い組織だと思っています。企業だけの共同研究と違って大学が媒介する共同研究だと、不確実性や変数から発展し、成果が出せる研究体制が構築できる可能性は高まるんだと思っています。若杉先生と井上さんの研究では、大学が媒介者になっていることが効果的に機能しつつありますよね。これを拡大して、個人研究者、単一企業から複数研究者、複数企業に変わっていくとどのような研究になるのか、どのような課題が見えてくるのか、見てみたいですね。

 

今回のIIDへの期待

松岡 去年は初めての開催だったので、実施できたことによって課題が見えたり問題意識が芽生えたりしたのは良かったなと。今年は武蔵野美術大学と日本総研の展示の回遊性をより意識して、講演・プレゼンテーションの合間に2階(武蔵野美術大学が中心の研究発表)、6階(日本総研が中心の研究発表)を見られるようなプログラム構成にしたり、武蔵野美術大学の教員に6階を見に来てもらう時間を取ったり、日本総研の研究員も2階を見に行く時間を設けています。こうすることで、両者の研究成果への相互理解が深まり、新たな気づきが生まれると思っています。

河野 今年からソーシャルクリエイティブ研究所(RCSC)では大学院修了生の中から、引き続き研究を続けていきたいという人たちが関われるよう「連携研究員」という制度をつくりました。知見や研究実績はまだ浅いかもしれないですが、いずれ一人前の研究者としてやっていきたい、このような方が関われる機能が必要です。まさに今回、彼らが日本総研の幅広い取り組みを知る機会が出来たら、研究領域拡大の可能性が広がりますよね。それぞれがこんなことやってますとか、こういう人を探していますみたいな、欠けているピースを埋められるような仕組みができると感じています。こうした取り組みを通じて、本学で育成した人材が活躍できる場を創りたいですね。

松岡 そういう意味では、ムサビの先生たちとがっぷり四つに組んで研究に取り組んでいるのが我々のスペシャリストたちなんですが、RCSCの連携研究員と我々の若手研究員も連携したら面白いですね。20代、30代の双方の研究員がお互いに刺激を与えあい、化学反応を起こして、2年後、3年後に研究テーマを確立し、育ってくれるというシステム、いいんじゃないですか。

河野 やってみたいですよね。「研究の卵」みたいなのを作っていくことはできると思います。10個やってみて2、3個孵化する、というぐらいの仕組みをつくりたいですね。

 

参加型の未来

松岡 RCSCの連携研究員と我々の若手研究者が研究の種をつくって、外部の企業や省庁、NPOというような人々がそれに共感してくださって、そこから研究が膨らんでいくことになるといいですね。今回の「参加型の未来」でいろんな人と出会って、そこから何か生まれてっていうのを目指したいですし、それは両者の研究力向上にもつながると思います。

河野 そうですね。本学は2029年の100周年に向けて「教育研究力の向上」を掲げています。「美大にとっての研究力向上は一体何か」が大学としての問いでもあり、自分としても大きな問いです。複数の企業が参加する「課題共有プラットフォーム」を立ち上げ、研究プロセスの中で、VCP※を活用した人材育成にも取り組みたいですし、共同研究をベースに教育プログラムを展開するという仕組みを構築したいと考えています。一方で、アカデミックな研究の評価って、「論文は何本書いたか」、「引用された論文は何本か」が基準になっています。展覧会とか、日本総研と取り組んでいるリサーチもなかなか研究成果として位置づけられない。研究の社会的評価も含めて問いを立てていくような形で研究力向上を目指したいと考えています。そのためにも、複数の企業と、若手研究者、学生が関わる共同研究をいくつか動かしてみたいですね。
※VCP:Value Creation Program(価値創造人材育成プログラム)

松岡 この3年間、ムサビの皆さんとの共同研究を通じて、課題ばかりに目を向けるこれまでのシンクタンク的なアプローチを超えて、アートやデザインの力を使い、可能性に目を向けるアプローチも取り込んで、我々の取り組みをブラッシュアップしてきました。しかし世の中の構造は増々複雑化して、「厄介な課題」は至るところに顕在化しています。これをどう解きほぐし、解決策を見出していくのか。それには、企業を含む様々なステークホルダーを巻き込んで、いろんな技術やスキルを持った人たちと取り組んでいかなければならないと思うんです。その際に、彼らが共鳴してくれるような深いイシューをいかに掲げるかが重要で、貴学と日本総研の研究者が関わり合うとそうした興味深いイシューが生まれるという手ごたえがあります。こうして、様々な企業や組織を誘い込む引力の強いマグネットをどんどん増やしていきたいと思っています。

 

日本総研展示会場(6階)の見どころ

松岡 農業や交通、介護分野の社会課題への取り組みを大きなテーマに沿って展示しています。できたものだけ、うまくいったものだけではなく、研究のプロセスで苦しい部分、助けてほしい部分も含めてさらけ出していますので、参加してくださる、見に来てくださる方々と、そうした苦しさも含めて共感、共鳴できたらと思っています。